いたずらっ子 その4

翌日、浮世絵中学校のリクオの教室で、一つの事件が起きていた。

「おい、奴良!なんで宿題やってないんだよ!」
「お、大きい声は止めて・・・。」
「はぁ!?何言ってんだお前。」
「ご、ごめん、ちょっと調子が悪くってさ。」

二日酔いになるほど飲んでしまったリクオがあの大量の宿題を片付けているはずも無く、リクオの宿題を当てにしていた島に怒鳴られていた。

「大丈夫リクオくん?
 ちょっと島くん、調子が悪いんだから仕方が無いじゃない。
 だいたい宿題は自分でやりなさいよ。」

本当に調子の悪そうな(二日酔いだが)リクオを気遣って、カナが島に言い返した。
確かにカナの言う事は尤もな事なのだが、島としてはリクオだけが頼りなので、ここで引き下がる訳にも行かなかった。

「だったらなんで学校に来ているんだよ、休めばいいじゃないか。」
「そうかもしれないけど、きっとリクオくんは真面目だから来ちゃったのよ。」

言い争いを始めた二人を他所に、リクオは痛みの走る頭を抱えて机に突っ伏していた。

(うう~~~、やっぱりダメだ。島君の言うとおり、休んだ方が良かったかも。)

そうは言っても、ここで帰ると言ったら彼女がどんな反応を見せるやら。
自分のせいだと・・・いや、確かにその通りなのだが・・・大声で泣いて謝ってくるに違いない。
そう、大声で。

それは地獄だ。何としても避けたい。

リクオはなんとか頭痛を堪えてニッコリと笑うと、もう大丈夫だからと二人をうまく宥めて話題を逸らし、授業を受ける事にした。

 

 

そして昼休み・・・ようやく二日酔いも収まりかけた所で、氷麗が何時ものように笑顔で教室に顔を出してきた。

「リクオ君~~~~、お昼ごはん一緒に食べましょう~~~~。」
「ああ、つらら。今行くよ。」

いつものように元気よく立ち、氷麗の元に急ぎ足で歩いて行く・・・つもりだったのだが、思っていたよりも体力を消耗していたらしい。
リクオはふらりと体をよろめかせてしまい、もう少しでクラスメイトの机にぶつかってしまう所だった。

「リクオ君!?どうしたんですか!?」
「な、なんでもないよつらら。」
「何でもない訳無いでしょ。」

ふらつく事を予想していたのか、いつの間にかカナがリクオの側まで寄って来ていて、その腕を持って支えていた。
自分より先にリクオを支えたことに、氷麗がムッと口を尖らせカナに支えられているリクオの腕を睨みつける。

「ありがとうカナちゃん。でも大丈夫だよ。」
「何言ってるのよ、朝からフラフラだったじゃない。
 体の調子が悪いんだから、今日は教室で食べたら?」
「え?や、やっぱり寝ぼけていたんじゃなくて、調子が悪んったんですね!?
 なんで言ってくれなかったんですか!」
「いや、それはその・・・」

二日酔いでその大きな声を聞きたくなかったから黙っていました、などと言ったらショックで寝込むだろうか。
それとも二日酔いの時はヒソヒソ声で話してくれるようになるだろうか。

試してみたい誘惑に駆られたが、それよりも早く氷麗があろうことかクラスメイトの前で跪いて謝ってきた。

「も、申し訳ありませんリクオ様!私が昨晩無理なお願いをしたばかりに!」
「昨晩!?無理なお願い!?」
「ちょ、つらら!皆の前で!」

ザワッと教室がにわかにざわつきだし、皆の注目が3人に注がれた。
それもそうだろう。
学校でも5本指に入る美少女二人を相手にしているだけでも十分注意を引くというのに、その内の一人を跪かせ『様』呼びでしかも如何わしさ抜群の台詞が飛び出て来たのだ。

「あの時は意地になってついリクオ様に迫ったりしたからこんな事に!」
「いや、あの時はボクもつい受けてしまって・・・ってそうじゃない!つらら、ここ学校だよ!」
「はっ!」

涙ながらに謝っていた氷麗が、ハッとなって周囲を見回し、自分の言った言葉を頭の中で反芻したのか、顔を真っ赤にしながら立ち上がると、皆に向け慌てて両手を振った。

「な、なんでもありませんよ!私の勘違いです!夜じゃなくて夕方です!
 別に言えないような事はしていません!」
「つらら!」
「ふぐっ。」

いや、それかえって誤解を与えてる。とリクオはつららの口を手で塞ぎながら心の中で激しくツッコミを入れる。
確かに抱き着かれただけで、キスは未遂だったし、酒を一緒に飲んだという事は言えない事だ。
つららはその事を指して言ったのだろうが、果たしてクラスメイト達は今の言葉を聞けばどう思うだろうか。
少なくとも『酒を飲んだ』とは思うまい。
きっと『昨晩』というキーワードを元にした様々な出来事を『あった事』として想像を膨らませているに違いないと、リクオは思った。

そんなリクオと氷麗がじゃれ合っているようにしか見えない、クラスメイト達の空想の為になんだかピンク色の空気をかもし出し始めていたクラスの中で、唯一人ドス黒いオーラを放つ者がリクオの腕をギリリと締め上げた。

「迫るって何されたの、リクオくん。」

「ヒィッ、カナちゃん!」

「そして何をしたの?」

「な、な、何でもないって。ほら、つららって思い込みが激しいし、イタタタ・・・カナちゃん、痛いって、放してよ。
 あ、つららこれは違うんだよ落ち着い・・・
うぁいたたたたた!

カナの手が丁度リクオの二の腕の下側の筋肉をしっかり掴んでおり、それほど力の無いカナでも力いっぱい掴めば、十分すぎるほどの苦痛をリクオに与えていた。

「ちょっとあなた何やっているのよ!その手を放しなさい!
 ほらリクオ様、お昼御飯を食べに行きますよ!」

リクオのもう一方の腕に自分の両腕を絡ませた氷麗が、ぐいっと引っ張りリクオを連れ出そうとする。
だがカナもまた逃がすものかと両腕でリクオの腕を掴むと、ギリリと強く引っ張った。

「うるさい!リクオくんが答えるまで放す気はないわよ!」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!い、イタイ、イタイって!」


まるで痴情の縺れのようだ・・・そう思ったクラスメイト達の冷やかな視線に、リクオは昼休みの間中はもちろん、放課後になってもずっと晒されていたという。


end

 

 

随分と長くなってしまいました。
結局何が書きたかったんだろうかと、自分でもちょっと疑問に思ってしまいます。
とりあえず書きたかったのは

黒羽丸がつららをだます
対抗してつららがリクオに酒を飲ます
翌日宿題出来ていなくて大騒ぎ

だったのですが・・・そもそもなんでこんなネタになったんですかね?(笑)

もちろん捏造設定ありまくりです。
私としては、つららと三羽鴉は同じ若い妖怪らしいので、幼馴染の仲良しであってほしいんですよね。
今後も色々と絡ませて書きたいと思っています(^^)。


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