私の歌を聞け! その4

さらに数日後、ついにつららの追跡に成功したリクオは、浮世絵町のカラオケボックスの前に立っていた。

「リクオ様、どうやら今日はここでデーぐふっ!」

首無のみぞおちに綺麗にリクオの拳が滑り込み、禁断の言葉を最後まで口にすることなく首無がその場に崩れ落ちる。

「じゃあ、ボクは中に入るね。あ、首無は調子悪いみたいだから、その辺で休んでいてよ。」
「り、リクオ様・・・」

悶え苦しむ首無をそのままに、リクオは一人カラオケボックスへと入って行った。

 

そして今、つららの歌声を聞きつけ二人の居る部屋を見つけたリクオは、扉の前で聞き耳を立てていた。
つららの歌が終わり、次は黒羽丸が歌う番だろうと思っていたリクオの耳に、看過できない言葉が聞こえてくる。

「ちょっと黒羽丸、こんなところでするつもり?」

何を!?
一言も聞き逃すまいと、リクオはさらに体をべたりと扉に張り付かせた。

「ああ、別にかまわないだろう?」

まさか如何わしいことではないだろうかと、リクオの中で様々な妄想が浮かび上がり、そんなバカなとリクオはその度に首を激しく横に振った。

「私は別にいいけど・・・」

いいの!?

「見られたりしない?」

やっぱり見られたら困る事!?

「大丈夫だ。ほら、ここならカメラの死角になる。」

わざわざ死角に入ってまでやる事となると・・・
嫌な情景を想像してしまったリクオの心拍数が急速に跳ね上がり、全身から大量の汗が噴き出てきた。

「なるほど、そこなら安心してできるわね。じゃあ好きにしていいわよ。」

好きにして!?

くらっとリクオの一瞬意識が遠のいた次の瞬間、夜の姿になったリクオが扉を蹴り飛ばして部屋に乱入した。

「うらぁ!てめぇら一体何してんだ!!」
「リクオ様!?」
「3代目!?どうしてここに!」
「それはこっちの台詞・・・だ?」

部屋に飛び込んだリクオが見たのは、お立ち台で選曲している最中のつららと、部屋の隅でノートを広げうずくまっている黒羽丸の姿だった。
よく見れば、それは以前見た事のある『黒羽丸日記』のようだ。
想像していた風景とはまるで異なる部屋の様相に、リクオは何も考えられなくなり立ちすくむ。

「申し訳ありませんリクオ様。実は歌の特訓をしておりまして。」
「歌の・・・特訓?」

なんでそんな事を?とつららを見るリクオに、黒羽丸が姿勢を正してリクオに説明し始めた。

「はい、屋敷の者たち知られればリクオ様の耳に届いてしまうだろうと、色々と試行錯誤した結果、カラオケボックスで行うのが一番という事になったのです。」
「それでカラオケボックス・・・って、え?なんで特訓?」
「それはもちろんリクオ様に気持ちよく目覚めて頂く為です!」

ペカー、と顔を輝かせながら元気良く答えるつららに、リクオはますます訳が分からなくなってきた。
つららは十分歌が上手い。特訓する必要などないのではなかろうか、と。

「せっかくですから、特訓の成果をお聞きください!」
「え?あ、ああ。」

いつのまに選曲したのか、『い○もそばで』の曲が流れ始めてきた。

何度も練習したのだろう。
つららはとても上手に歌っている。
その周りでは、何時の間に用意したのか、黒羽丸がリズム良くマラカスを振っていた。

それを茫然自失状態でリクオが聴いている。

 

つららがくるくると踊りながら歌い、その周囲を黒羽丸が飛び回りながら器用にマラカスを振っている。

そしてやはり茫然自失状態のリクオがずっと聴き入っていた。


end

 

 

何ですかこのオチ(笑)。
や、なんかこー、どういう訳かこういう話になってしまいましてね。
いい感じでボケボケなつららと黒羽丸が書けて、とても楽しかったです(^^)。

こうしてリクオは結局、つららの歌の為に悪夢に悩まされ続けることでしょう(笑)。
しかし、16巻のつらら組誕生幕といいオマケ漫画といい表紙裏といい、本当に16巻はリクつら尽くしですねぇ(^^)。

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