しとしとと雨が降るその日、珍しく訪れた狒々と総大将が、居間で茶を啜りながらお互いに新しく発見した喫茶店の話を楽しんでいた。
「しつれいします。」
「ん?」
ずいぶんと幼い声がしたかと思うと襖がそっと開き、奴良家住まいの女妖怪ではなく、幼いリクオとまだ子どもの猩影が茶菓子を持って部屋へと入ってきた。
「なんじゃい、お主ら。何でそんなことをしとるんじゃ。」
「えへへー、雪女のものまねごっこだよ、じぃちゃん。」
「・・・」
にぱーっと笑うリクオの横では、明らかに『付き合わされた』といった表情の猩影が黙って茶菓子を差し出している。
「雪女のやつめ、リクオにこんなことやらせてどういうつもりじゃい。」
「ボクが雪女にめいれいしたんだからいいの。」
「そう言う問題では無いぞ、リクオや。
だいたいじゃな、総大将になろうという者が・・・」
ぶつぶつと説教を始めようとした総大将の言葉を遮るように、狒々は受取った茶菓子を総大将の目の前に差し出した。
「ヒャハハハ、たまにはいいじゃろ、総大将。
可愛い子らの面白い姿が見れるのも、また趣があっていいわい。」
「むぅ・・・お主がそう言うなら、まぁいいわい。」
元々『楽しければ大概の事はあり』な奴良組という事もあり、総大将はリクオと猩影に労いの言葉をかけて下がらせると、再び狒々との世間話を楽しみ始めた。
「ああ良かった。粗相はしませんでしたか、リクオ様。」 昔ならともかく、今では多少なりともしきたりに五月蠅くなってきている。 「大丈夫です、親父が上手く間に入ってくれました。」 リクオがイタズラをするのは何時もの事だが、さすがにこれはイタズラや遊びでは済まないのではないかと気が気では無かったのだが、どうやら無事に済んだのだと、二人はホッと息を吐いた。 「猩影くんはリクオ様に付き合わされて、大変ね。」 と言ってつららは猩影の頬に手を添えると、頬にチュッとキスをした。 「!?」 突然の事にキスされた頬を手で押さえながら茫然とする猩影を、リクオが指を咥えて見ながらつららにおねだりする。 「自分でやらせろと命令したのでしょう?だからご褒美は無しです。」 リクオの我儘につららは困ったような顔をしてはいるが、目は優しく微笑んでいる。 「しょうがないですね~。じゃあ、おねだりする時は何て言うんでしたっけ?」 ん?と首無が無い首を傾げる。何か言葉のやり取りがおかしい。
リクオ達が歩いて行った先の別室では、つららだけではなく首無もハラハラしながら二人の帰りを待っていた。
「もちろん!ちゃんとわたしたよ!」
「総大将に何か言われなかったか。」
その事を心配した首無が、的確な返答を期待できる猩影に話しかけた。
「それは良かった。」
「そ、そんなことありませんよ。」
「あらいい子ね。そうだ、お茶菓子を代わりに出してくれたご褒美をあげるわ。」
「いいなー、ボクもー。」
「いやだ。ボクもしてほしいんだい。」
結局最後はリクオ様の我儘が通るのだろうなと、首無は苦笑しながらその様子を見ていた。
「んーと・・・ボクにもキス。」
「『キス』で終わり?」