リクオは少し戸惑うように目を泳がせた後、はにかみながら上目遣いにつららを見上げた。
「あ~~、キスしてください。」
「はい、良く出来ました。」
つららはニッコリ微笑むと、リクオに近寄り頬にチュッとキスをした。
その事にリクオは満面の笑みを浮かべ、えへへと照れ笑いしながらつららをじっと見る。
「ちょっと待った!!」
「え?どうしたの首無。」
「どうしたの、じゃないだろ雪女!どこでそんな事覚えたんだ!」
「お母様から『若い殿方との接し方』だって教えてもらったんだけど?」
きょとんとした顔で答えるつららに、首無は口をあんぐりと開け声が出ない。
(なんて事教えるんですか雪麗の姐さん~~~~~!!)
「最初は年下から始めるのが良いってお母様も言っていたし、奴良組本家で私より若いのってリクオ様しかいないのよね。」
「そういう問題じゃない!
というかどう考えても狙い撃ちじゃねぇのか!?
姐さんホント何考えてんだ!」
興奮のあまりいつもと若干口調が変わってしまった首無に、何か変な事を言ったのだろうかと、つららはビクリと肩を震わせた。
それを見かねたリクオが、首無の袖をくいっと引っ張る。
「くびなし~、ほら、おちついて。どうしたのいったい?」
「ハッ・・・リクオ様、申し訳ありません。
ところで雪女、まさかとは思うが、いつもこんな事をしているのか?」
「ええ。まだ慣れていないからリクオ様以外じゃ猩影くんが初めてだけど。
相手が大人だと恥ずかしさが先に来ちゃうけど、リクオ様だとやり易くて丁度良いのよ。」
「するんじゃない!跡取りだぞ!」
まるで練習に丁度いいと言わんばかりのつららの物言いに、流石の首無もキツくつららを叱りつけた。
母の教えを守っているだけと思っているつららからすれば、当然不満の言葉が自然と出てくる。
「え~~~、じゃあどうすればいいの。
慣れなきゃ何時まで経っても上手くならないじゃない。」
「とにかく!リクオ様には禁止だ!」
「もう、判ったわよ。」
つららの返答に満足した首無は、それでもやはり興奮が収まらないのかドシドシとらしからぬ音を立てながら去っていった。
「しょうがないわね~~。いったいどうすればいいのかしら・・・」
両腕を組みふんっと鼻息を荒げるつららの視線が、茫然と今のやり取りを見ていた猩影の目と合う。
途端にキラーンと輝いたつららの目に、猩影はビクリと後ずさった。
「そうだ!ねぇ猩影くん、私の(練習の)為にもっとここに遊びに来てくれない?」
「・・・は、はい!喜んで!」
頬を染めつつ嬉しそうな顔で答える猩影を、リクオは指を咥えてじっとつまらなそうな顔で見続けていた。
翌日、首無の首がボール代わりに使われたのは、偶然では無かったのかもしれない。
それから数ヵ月後、息子の異変・・・雪女を『姐さん』と呼び、舎弟というよりは完全な下僕と言っていいほど、雪女に尽くしていた・・・に気付いた狒々は、猩影の奴良組本家出入りを禁じたのであった。 狒々はこう言っていた。 そして出入り禁止の理由を知った首無は、つららに数時間にわたる説教を行い、雪麗の教えが間違っているのだという事を、なんとかつららに納得させたらしい。 end
それは狒々が死ぬまで解かれる事は無かったという。
『先代といい、雪女の畏れとはまこと恐ろしいもんじゃの。』
つららさんが雪女の畏れ全開で女王様への道を歩む・・・はずが不発になったお話でした。お楽しみいただけましたか?
リクオ様調きょげふんげふん・・・誘惑は首無の活躍(?)で失敗に終わりましたが、もしかすると既に手遅れだったのかもしれません(笑)。
机の上を整理していた所、けっこう前に思い付いたネタが出てきまして、それを元に書いてみました。
う~~ん、当時の私は一体何を考えていたのでしょうかね?
つららはきっと、雪麗姐さんの教えた事であれば、何の疑いもなく何だってやってしまいそうな気がします。
首無の説教が無ければ、何人もの男を無意識のうちに誑かす、とんでもない氷麗さんになっていたかもしれませんね(^^)。
あ、でもその方が雪女らしい感じがしますね~。
そして真っ先につららの畏れに呑まれたリクオは、常にヤキモチ状態になっていると(^^)。