「り、リクオ様!?ちょ、ちょっと待って下さい。
リクオ様は今でも私にイタズラとかするじゃないですか、それはいいのですか?」
「・・・・・」
氷麗の一言に、その場の空気が別の意味で凍りついた。
その原因はもちろんリクオであり、彼の心情を代弁するのであれば
『せっかく上手く決まる所だったのに、何をとぼけた事言って雰囲気をぶち壊しているんだこいつは。』
といった所だろうか。
「・・・あれはいいんだ、氷麗。」
「ど、どうしてですか!?私はちっとも良くありませんよ!?」
「えーと、そう、あれは『スキンシップ』だからね。」
「どこにそんなスキンシップがあるんですか!」
「ボクと氷麗の間に。」
「なに訳の分かんない事言っているんです!そんな事を言っているから何時まで経っても子どもだと思われるのですよ!」
ピクリ、とリクオの眉が上がり頬が引き攣る。
そして見合い相手とその仲人もまた、目を見開き驚いていた。
確かに成人したばかりだし人間としては子どもではあるが、3代目を継いでいる主に向かって『子ども』呼ばわりするとは・・・彼らは自分の耳が信じられなかった。
「さっきから随分な事を言うね。」
「それはリクオ様が変な事ばかり言うからでしょ!?」
「変な事?それは氷麗が言った事の方じゃない?」
「私が何時変な事を言ったんですか。」
「ん~~、確かおじいちゃんやお父さんの事を、『真性のロリコン』とか何とか。」
リクオ様に対する物言いだけでも十分問題だというのに、総大将に対してそんな事を言ったのか!?と見合い相手とその仲人はさらに驚いた。
だがそれ以上に信じられないのは、言った当人は悪い事を言ったと自覚しているようなのに、3代目の方はどう見てもそれほど気にしているようには見えない事だ。
あまりにも自分達の常識からかけ離れたこのやり取りに、本当にこの二人は主従なのだろうか、とさえ思ってしまう。
当の氷麗はというと、そういえばあの時リクオ様はかなり早い段階から部屋におられたのだから、その話を聞いていたのも当然なのだ、という事を改めて思い出していた。
あの時は何も言われなかったのですっかり忘れていたが、考えてみれば本人を前にして言うとは、なんとも畏れ多い事をしてしまったと大いに後悔するが、もちろん後の祭りと言うやつだ。
「あ、あれはその、えーと・・・」
「ボクもそうなんだって?」
「い、いえ、それはですね。一般論というか・・・」
「そういや、前におじいちゃんは『ハゲ』だのボクも『ハゲるから残念』とか言ってたよね?」
見合い相手とその仲人は、ブハッと吹き出しそうになった口を慌てて押さえ蹲る。
確かに総大将はハゲだ。きっとリクオ様もハゲるだろう。
だからといって、正面から堂々とこんな事が言えるとは、本当にこの娘は何者なのだと思ってしまう。
もはや二人は、完全にリクオと氷麗の畏(?)に呑み込まれていた。
「そ、そんなことは言っていません!ただ『リクオ様の綺麗な髪があんな風に無くなってしまったら、キメ顔も締まらなくなって色々台無しかも』って思・・・あ。」
「そこまで言われた覚え無いんだけど!?」
「も、申し訳ありませんリクオ様!!」
「まさか氷麗がそんなこと思っていたなんてねぇ。」
「い、いえ違うんですリクオ様!私はだた、その・・・」
「ああそうだ。イタズラをする、もう一つ理由が出来たね。」
「な、何がですか?」
どんな仕打ちを受けたとしても当然なほどの失態をしでかしてしまったと、氷麗はビクビクと震えながら後ずさる。
その氷麗の腕をリクオはガシリと掴むと、満面の笑みを浮かべながら最終通知を行った。
「あれはイタズラじゃなくて、お・し・お・き。」
「ヒィッ!」
ただ一人、リクオだけが本家の小妖怪たちにこんな感想を漏らしていた。 「うん、とっても楽しかったよ。 「総大将や先代、そして3代目にまでに畏れ多い事を平然と言うような者を娶るなんて、とんでもない。」 という噂が飛び交っていたのを、氷麗達が知る由も無かった。 end まともなリクつら話を書いたのはけっこう久しぶりな気がします。 本当は、ひたすらイチャつく二人に当てられてスゴスゴと引き上げる見合い相手、という話しを作る予定だったのですが、イタズラの虫が騒いでこんな物になってしまったようです(^^)。 しかし、ウチのサイトでは氷麗さんのドジに振り回されるリクオ、というのがデフォになっていますね~。
その後何があったか、いや、そもそもその場で何が話し合われたか、その場に居合わせた誰一人として、決して口にする事は無かったという。
場所が違うだけで、あんなに楽しめるなんてねぇ。またやってみたいな。」
「もう絶対に嫌です!!」
少なくとも、それ以降氷麗に対する見合い話はピタリと止んだ。
当初はリクオの氷麗に対するご執心ぶりがアピールされたのが、功を奏したと側近達は思ったのだが・・
いえ、これをまともと言うのは自分でもどうかと思いますが(笑)。
お楽しみいただけたでしょうか?
青田坊や黒羽丸が仲人の仮想見合いのシーンを考えるも楽しかったですね~。
ところで、仮想の見合いシーンと本番のシーンで、微妙に違う所があります。お気づきになりましたか?(^^)
他所様のサイトのように、もっと乙女している氷麗さんも書きたいものですが、ギャグの血が騒ぐ私には無理なようです。
リクオ様も、当初の予定とはちょっと違った形になりましたが、氷麗に悪い虫が付くのを防ぐ事に大いに成功したと喜んでいる事でしょう。
後は嫁にする時の障害をどう取り除くかですが、今回の事も『普段は従順だが、いざとなったらどのような諫言でも恐れなく言える頼もしい奥方』というアピールポイントにできるなと目論んでいるに違いありません(^^)。
諫言どころか、コンクリートの上に正座させるという折檻すら既に出来ていますが(笑)。
しかしリクオってホント、氷麗に甘いし弱いですよね~。