ほろ酔い気分

彼女が酒を飲んでいるところを見た事があるだろうか?
ふとリクオはそう思い、自分の記憶を手繰り寄せる。

食事・・・飲む奴もいるが、つららの場合はお勤めがまだ残っている時点で飲むはずがない。

宴会・・・給仕に忙しく駆けまわっている姿しか記憶にない。

記念パーティー・・・カメラマンになって忙しなくシャッターを押し続けてばかりだった気がする。あれは面白くなかったな。

夜の酌・・・滅多にないが、付き合いでたしなむ程度になら飲んだ事があるか。


結論。つららはほとんどお酒を飲まない。
という事は、もしかしてつららはお酒に弱いのではないだろうか?

そう考えを纏めたリクオは、良いイタズラを思い付いた時のように、ニヤリと口元を歪ませた。

 


それから数日後の夜。
今夜もつららはリクオの部屋へと足を運んでいる。

「リクオ様、つまみをご用意いたしました。」
「おう、入れ。」

今日は鴆がやってくるからと、リクオは予めお気に入りの酒を自分で用意し、そして時間を見計らってつららに酒の肴の用意を命じたのだが・・・

(鴆様は何時来られたのかしら?)

台所でつまみの準備をしている間に来たのだろうか、とつららは思いながら障子を開けた。
が、そこには鴆の姿は無く、リクオ一人が胡坐をかいて待っていた。

「・・・あの、鴆様は?」
「いや~、それがさっき使いが来て、来れなくなっちまったみたいでな。」

リクオの話によれば、急患が出た為に来れなくなったらしい。
だったら台所に使いをよこして、もう要らないと一言伝えてくれれば良いのに、とつららは思ったのだが、どうやら主は鴆と今日は飲み明かすつもりでいたらしい。
このまま酒を飲まずに終わる気にはなれなかった為、そこで鴆の代わりにつららに相手をしてもらおう、という事だそうだ。

そんな自分が、と遠慮するつららをリクオは強引に説き伏せると、二人で談笑しながら酒を酌み交わし始めた。

「今日はもう勤めも終わってんだ、遠慮はいらねぇぞ。」
「はい、それではお言葉に甘えまして。」

つららのその言葉を聞いた時、リクオは心の中でガッツポーズを取っていた。
実はこの時、彼の頭の中では、次のような図式が完成していたのだ。


つららはきっと酒に弱い
    ↓
沢山酒を飲ませて酔わせてみよう
    ↓
何か面白いものが見れるかもしれない
    ↓
普段は聞けないような事まで聞き出すのもいいかも
    ↓
あわよくば最後まで頂いてしまおう


つららはもちろん、側近達が知っても、なんだか情けなる事間違いなしの想像を、リクオは頭の中で描いていたのであった。


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