「どうしていつも私だけ除け者なのですか!誰とも一緒にお風呂に入った事なんてないんですよ!」
「いや、そりゃそうだろ。」
つららは氷と同じ体温を持つ雪女な訳であり、当然のことながら雪女が入る風呂となれば水風呂を通り越して氷風呂となってしまう。
そうしなければ火傷するだけだし、それどころか普通の風呂に入ろうものなら体が溶けてしまう。
「いいえ!もう我慢の限界です!さあ、若!一緒にお風呂に入りましょう!!」
「無茶言うな!死ぬ気かお前!駄目に決まってんだろ!!」
「やってみなければ分からないでしょう!?」
「いやいやいや、判るだろ。」
思わず普通にツッコミを入れてしまったリクオだったが、当然つららの耳には届いていない。
「待った待った~~~~!!」
そんな二人の間に割り込むように、突然黒田坊がマイクを片手に湧き出てきた。
何事かと驚くリクオとつららを他所に、黒田坊はマイクに小指を立てながら熱弁を奮い始めた。
「さあ、仲間と一緒にお風呂に入る事を夢見る雪女の希望を叶える事が出来るのは誰か!
『雪女toお風呂!!』選抜大会、ここに開幕です!!」
「何言ってんだお前。」
ゴスっと黒田坊の背中にフライング妖怪ヤクザキックが炸裂する。
「いたたたた、なんですかリクオ様。」
「なんだじゃねぇ。一体どういうつもりだ黒田坊。というか何時の間に看板まで作ってたんだよ。」
リクオ達の背後にはいつの間にか『雪女toお風呂!!』と書かれた巨大な電飾付きの看板が立て懸けられており、すぐ脇には何やら平べったい円筒上の・・・昔見た事があるようなモノが、白い布に隠されるようにして置かれている。
「ふふふ、ぬら組の組織力を甘く見ないで下さい。」
「どんな組織力だよ。」
呆れかえるリクオの両肩を雨造と淡島がぽん、と叩く。
「面白そうじゃないか。やっちまおうぜ。」
「そうだそうだ。たまにはこんな娯楽も良いじゃねぇか。」
「おいおい。」
つららの方はつららの方で、あまりの展開に完全に固まってしまい、毛倡妓や冷羅が面白そうに笑いながら、つららが座る悪趣味で豪華な椅子を用意していた。
「さあ、気を取り直してルールを説明します!
皆様も分かっての通り、雪女の入る風呂は氷風呂。一緒に入るには、それに耐える体力と精神力が必要不可欠です!
そこで、ここに氷風呂を用意してみました!」
そう黒田坊が言うと同時に、リクオ達の側にあった白い布がバサッと取り払われる。
リクオが予想した通り、そこには水と氷が浮かんでいるビニールプールがあった。
それを見てポロリとリクオは呟く。
「死人出んじゃねぇか?」
「この氷風呂に10分耐えらた者に、雪女と一緒にお風呂に入る権利が与えられます!」
「「ちょっと待った(て)!」」
黒田坊の放った言葉に、リクオとつららが同時に声を上げる。
「おい、黒田坊。てめぇ何言ってんだ。」
「そうよ、冗談にしては度が過ぎるわ。」
「何言っているんですか二人とも。雪女は誰ともお風呂に入れなかったのが不満なのだろう?
えり好みできる立場じゃ無いってのは自分でも判るはずだ。」
「う・・・」
「リクオ様も。せっかくの雪女の申し出を断ったのは若御自身です。皆の前で宣言した以上、もう取り消せませんよ。」
「ぐ・・・」
「しかし、こういうお祭り騒ぎに乗じて若が権利を勝ち取れば、誰はばからず堂々と一緒に入れるではありませんか。」
「そういう・・・もんか?」
「そうです。雪女にとっても望ましい展開じゃないのか?」
「え?ええと・・・」
思わずこくりと頷いたつららを見て、黒田坊が(いつの間にか集まった)観衆に向けて大声を張り上げる。
「さあ皆さん、雪女の了承を得ました!!それではさっそく始めましょう!最初の挑戦者は誰か!?名乗りを上げて下さい!!」
なんだか騙されたような気がしないでもない、というか確実に騙されている二人だったが、場の雰囲気に呑まれ成り行きを見守るばかりだ。
「そうそう、実際には雪女の気分次第で水温に変化が出てしまいます。つまり雪女の好感度までもが分かるというオマケ付き!
そこで、リアルさにこだわり、雪女には水着姿で一緒にプールに入っ・・・」
ピキィーン!!
黒田坊が台詞を最後まで言い終わるより前に、完全に氷漬けと化してしまった。もちろんその実行犯はつららである。
「え、えーと、不慮の事故があったため、司会はこの首無が引き継がせて頂きます。」
ひょっこりと現れた首無が額の汗を拭いながら、変わり果てた黒田坊を運び出すよう指示している。
「先ほどの話ですが、雪女の体の一部がプールに入っていれば十分ですので、足だけを浸けてもらう事にします。」
ブーブー、と会場から非難の声が聞こえてきたが、つららがギラリと睨み冷気が会場全体を覆った途端、異議を唱える者など誰も居なくなった。
どす黒いオーラを放つつららに首無が近付き、観衆には聞こえない小さな声で話しかける。
「ほら、つらら。これだけならいいだろう?」
「ふう・・・まったく皆、何考えているのかしら?」
「ははは、それだけつららが魅力的だってことさ。」
「え?」
首無の言葉につららはどきっとして頬を赤らめる。
「おい、首無。」
「はい、なんでしょう若。」
「あまり妙な真似すんなよ。」
「そんな、しませんよ~~。」
リクオの牽制にしれっと笑顔で答える首無。その間に漂う雰囲気の意味も判らず、つららはにこやかな顔で二人を交互に見ていた。
こうしたやり取りをしている間も誰も挑戦に名乗りを上げずにいたのだが、ついに痺れを切らしたように、一人の若者が名乗りを上げた。
最初の犠牲者挑戦者は誰だ?という所で区切らせてもらいました。
あ、最初の犠牲者は、考えて見れば黒でしたね。
そうそう、私は人間形態なら雪女でも普通にお風呂に入れると思っているのですが、話の都合上それを無視しました。だってこの方が面白いじゃないですか。
今後の展開はもう見え見えかもしれませんが、どうぞ次回を楽しみにお待ちください。