雪女toお風呂!!その4

氷の彫像と化した牛頭丸を、小妖怪たちが力を合わせて運んでいる景色をバックに、首無は何事も無かったかのように司会を続けていた。

「さあ、誰か挑戦者はいませんか?今回の結果は皆さんの予想どおりなだけで、可能性は十分あると思いますよ?」
「よっしゃあ!ここはオレ様の出番だな!」

とすかさず出てきた巨大な影。

「ちょ、ちょっと、何であなたがここにいるのよ!」

つららが驚くのも無理はない。
現れた巨漢の正体は、花開院家にいるはずの青田坊だったからだ。

「こうでもしなきゃ出番が無いんじゃ~~い!」
「・・・・もしかして、こういうシリーズが続くの?」

悲痛な叫びを上げる青田坊を、つららが冷やかな目で見つめる。

「さぁて、これに入っていればいいんだな。」
「あ、おい青田坊、勝手に進めるんじゃ・・・」
「がはははは!これぐらいどうって事ないぞ!!」

進行の順番も何も無く勝手に氷風呂に入る青田坊に、首無はやれやれと頭を振る。
別にこだわるような事でもないので、まぁそれでもいいか、と首無はタイマーをスタートさせた。

 

それから8分が経過し・・・

「さすがぬら組きっての強者!なんとここまで来て全く動じる気配がありません!」
「ガハハハハ!楽勝!楽勝!!」
「はぁ・・・なんだかねぇ。」

青田坊はつららと一緒に長年リクオの護衛を勤めていたという事もあり、それなりに冷気には慣れている。
二人とも『若第一』という点で気が合う者同士なのだから、すぐに仲が良くなるのも当然だっただろう。
氷風呂にほとんど氷が張っていないことからも、その事は明らかだった。

だが、その様子を面白くなさそうな顔をして、頬杖を付きながら睨んでいる男がいた。リクオである。
リクオの頭の中では、黒田坊の言っていた『雪女の好感度も判る』という言葉が何度も繰り返され、その度に益々イライラが募るばかりだ。

「ちっ、面白くねぇな。」

『好感度』と一言で言っても、その意味は色々あるはずなのだが、リクオにとっては『好感度=恋愛対象としての尺度』と、どうしても思ってしまう。
それは思春期に入ったばかり若さ故なのか、それともつららが絡んでいるためか、そこまで考える余裕はリクオには無い。
そんなリクオの様子を見た首無は、口元をニヤリと歪ませると、青田坊にマイクを通して話しかけた。

「ほほう、流石は青田坊。つららからの好感度もかなり良いみたいだね。」
「ガハハハハ!当たり前だろうが!何年一緒に居たと思っているんだ!」
「!!」
「え!?ちょ、ちょっと、首無に青田坊!変な言い方しないでよ!」

リクオに誤解されかねないと、つららが慌てて声を上げたが、それさえも予定通りと首無が切り返す。

「皆知っている事なんだし、照れる事じゃないだろう?」
「そ、それはそうだけど!」
「そのとおり、今更照れてどうする!」
「!!!」

見事に首無の話術に嵌ってしまったことが、かえって誤解をより生みやすい状況へと変化させてしまう。
そんな3人のやりとりに目を大きく開いて驚いていたリクオを、面白そうに首無が眺めていた。

「そうだ、青田坊。このまま行けば、雪女と一緒にお風呂に入れる権利が得られる訳だけど、一緒に入りたかったのかい?」

首無の突然の言葉に、リクオとつららが顔を青ざめさせ『そうだ、もしそうなったらどうしよう~~~!!』と二人揃って、つららと青田坊が一緒にお風呂に入っているシーンを想像してしまった。

かぽーん(想像中)

つららは思わず『助けて!』と言わんばかりにリクオの方を見たのだが、当のリクオは『殺してしまうか?』と青田坊の方を睨んでおり、つららの視線に気付かない。

「何を藪から棒に。オレは黒より上だという事を、示したかっただけじゃ。」

つまらない事を聞くな、とばかりに青田坊が答えるのを聞き、リクオとつららはホッと胸を撫で下ろす。
だが、続く言葉に、二人は顔を真っ赤に染める羽目になった。

「若、ご安心ください。雪女と風呂に入る権利は、若にお譲り致しますぞ。楽しんで下され。」

やっぱりそうなるのか、とマイクの音声スイッチを切って「チッ」と舌打ちする首無。
もちろん皆から見える角度からは、常に営業スマイルを絶やしていないあたりは、流石といった所か。

ここで残り20秒を切り、誰もが青田坊の勝利を疑わなくなった時、青田坊は余計なひと言を放ってしまった。

「子供と一緒に入っても面白くありませんからな。ガハハ・・・!」

一瞬にして青田坊の全身を氷が覆い尽くし、会場から大きなため息が流れる。

「おや、後少しだったのに、失言しようです。残念ながら青田坊選手リタイヤ~~~!」
「私はもう何年も前に成人したのですよ。もう大人です!オ・ト・ナ!」

頬をプウッと膨らまし青田坊から顔を背ける様子は、どう見ても大人の女性には見えないのだが、誰もが藪蛇はゴメンだと、そ知らぬ振りをした。
そんな中、リクオだけはがっくりと肩を落としていた。

「そんなにオレと風呂に入りたくないのか。」

ぼそりと呟いたリクオの言葉を首無は聞き逃さなかったのだが、別の理由で凍らせたのだと教えても面白くなさそうなので、あえてそのまま大会を進行し続けた。

 

 

 

首無が黒くて済みません。なんとなくそういうキャラになってしまいました。
なお、この話では、つららの年齢は18歳と設定しています。

理由1:回想を含め本誌でつららと共に出たリクオの最少年齢は7歳であり、その時には成人(13歳)していただろうと考えて、リクオより6歳以上年上。
理由2:本人曰く『乙女』、首無曰く『すごく若い』、少年誌的に若くないと(笑)、という事で、可能な限り若く設定。

ま、別にもっと年上でも妖怪は人間と寿命が違うので、あまり問題無いとは思うのですがね~。
というわけで、少なくとも150年以上、下手すると300年以上生きている青田坊から見れば、つららは「子供」という事になる訳です。

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