雪女toお風呂!!その5

「次は俺達遠野勢の出番だな。」
「土彦!?」

ずいっと土彦がステージに上がり、腕を振り上げ観衆に応える。

「ほう・・・遠野勢から、なんと経立の土彦が参戦しました!極寒の地、遠野で鍛えられた彼なら、雪女の冷気に耐えられるかもしれません!」

首無の解説に気を良くした土彦が、雄叫びを上げながら服を脱ぎ、両腕を振り回した。

「あ~、やっぱりそう言う系なのね。」

そんな土彦に対し、つららは冷やかな声を浴びせる。

「なんだ、つ・・・雪女。文句でもあんのか?」

土彦は『つらら』と言おうとした所でリクオに鋭く睨まれ、本能的に『雪女』と言い直した。
気圧されたのは癪だが、別に冷羅との区別はこれでもつくのだから、わざわざ危険を冒す必要など無いというものだ。

「だって、9巻でハブられた上に、死亡説まで出ている土彦でしょう?
 出番の無いキャラへの救済としか・・・」
「まだ生きてるだろが!というか『9巻』って何だよ!
 訳のわかんねぇ事言ってんじゃねぇぞ!こらぁ!!」

涙目になりながら叫ぶ土彦の様子は、何故か皆の涙を誘うものがあった。

土彦は暫らくの間息を整えた後、つららの前に立って全身を舐め回すようにジロジロと凝視する。

「な、何よ不躾ね。」
「うん、リクオが夢にまで見る訳だぜ。こりゃ楽しみだな。」
「え?夢で?」
「ああ、寝言でお前の名前を呟いてたぜ?」

土彦の言葉に、つららの頭からボンっと湯けむりが上がった。
その顔は火が出ているのではないかというほど真っ赤で、両手で頬を抑えながら俯き何も言えなくなる。

「ちょっと待て!いつそんな事言った!」
「そりゃ遠野にやってきた初日に。皆の前で言ってたってよ。」
「な・・・!!」
「ま、俺はその場に居なかったから、他の奴から聞いた話だけどな。有名だぜ?」

リクオもまた顔を赤く染めながら、口をパクパクと動かすだけで、何も言えない。
なんとなく見まわした先にいたイタクと目が合い、『本当か?』と目で聞くと、イタクは『その通りだ』と目で答えてきた。
その事に完全に固まってしまったリクオを、観衆がヒューヒューとはやし立てる。

「さあさあ、惚気話はこの辺にして、大会を続けましょう。さあ、土彦、氷風呂に入って下さい。」

完全に硬直してしまった場を首無が仕切り直し、我慢大会を再開させた。
土彦は躊躇うことなく氷風呂に勢いよく入ると、平然と肩まで浸かるばかりか、そのまま鼻歌まで歌い始める。

「おや、随分と余裕があるね。」
「当然よ。俺の剛毛は生半可な冷気は通さないぜ。遠野で散々鍛えたからな。」

そう言うと土彦は笑い声を上げる。
実際土彦は平然としており、このまま行けば氷風呂に10分耐えるのも余裕だと、誰もが思った。

「これで雪女とウハウハお風呂だぜ!コンプリートって奴だ!」
「なんてやつ!!」

土彦の言葉に氷風呂の温度が一挙に数段下がったが、それでも土彦は怯む様子が無い。
そこに首無がひょいと近付くと、マイクを土彦に向けて質問した。その顔は笑っているが、目つきは鋭く笑っていない。

「コンプリートって?他にもしたってこと?」
「冷羅だよ、冷羅。」

首無は目をすうっと細めると、気を良くしている土彦に、さらに質問を続ける。

「なるほど、慣れているってことか。凄いな。」
「おうよ!伊達で冷羅の風呂を何度も覗いていた訳じゃないぜ!」

カキーン

土彦が再び笑い声を上げようとした瞬間、その姿が氷に包まれる。
冷気の元は、つららと、そして冷羅。

いつの間にかステージ脇に来ていた冷羅が、渾身の力で冷気をつららのそれに上乗せしたのだった。

「おおっと、残念ながら土彦もリタイヤ~!彼は、熱~~~いお灸で溶かしてもらう事になるでしょう!」

ギラリと睨む冷羅に土彦を渡すと、首無は我関せずとばかりに司会を続けた。

 

 


今度は土彦に犠牲になってもらいました(笑)。
最初は土彦の話は短かくなりそうだったのですが、思ったより長くなって良かったですよ。
リクつらな所も書けたし、満足のいく出来になりました。

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