守るという事 3

夜が白み始めた頃、リクオの部屋で主の帰りを待ち続けていた側近達が、今後の事を相談し始めていた。

「若の世話係の後任に、誰がなるかという事だが。」
「おい、首無。」

話を切り出した首無を、青田坊がギロリと睨む。

「まだ死んだ訳じゃねぇ。そんな話はするな。」

気まずい雰囲気が二人の間に流れる。
青田坊にとって、つららはずっと一緒に若の護衛をしてきた仲間であり、このような話をするだけでも腹立たしい事だ。
そうした思いを・・・いや、それだけでは無い苛立ちも露わにして、青田坊はムスッと腕を組む。

「青田坊、いくら怒る事が出来ないからと、私に当たるのは止めてほしいものだな。」
「どういう意味だ?」

苛立ちの矛先を自分に向けられた首無もまた、普段からは考えられないきつい物言いで青田坊に切り返す。
そんな首無にさらに緊迫感を強めながら、青田坊が首無を鋭く睨みつけた。

「おおかた、自分も一緒に行けばと思っていたのだろう。確かにその通りだな。」
「何だと!?」

首無もまた青田坊を鋭く睨みつける。その眼は今にも青田坊に掴みかかろうとしているかのようだ。
青田坊の方も肩膝立ちになり、今にも首無に殴りかかりそうな勢いだ。

「ふ、二人とも落ち着け。」
「そうだよ。喧嘩したって何にもならないだろー?」

そんな二人の間に、黒田坊と河童が慌てて割って入る。
だが、首無と青田坊は、二人の頭越しに互いに怒鳴り合い始めた。

「てめぇ、すかしてんじゃねぇぞ!言いたいことがあったらはっきり言いやがれ!」
「ああ言ってやる!お前がしっかりしていたら、つららはあんな事にはならなかったはずだ!」
「それはてめぇだって同じだろ!また女と遊んでて、うっかり見過ごしちまったんじゃねぇのか!?」
「なんだと!そういうお前は、一番の側近だというのは口先だけだろうが!」
「んだと貴様ぁ!!」

黒田坊と河童の必死の制止も敵わず、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めようとするほど互いの顔を近づけて罵り合う。
鋭く睨みあう二人の顔が徐々に近づき、『ああもうダメだ』と河童が思ったその時、突然ガラリと襖が開いた。

「あれ?4人ともリクオ様の部屋で何やっているの?」


「「「「・・・・・」」」」


良く聞き知った声に全員がそろって振り向き、その姿に全員が驚きのあまり声を失う。

「ほらどいて。リクオ様が私の部屋で眠っちゃって。ここまで連れてくるの大変だったのよ。」

そこには、昨夜には死にかけていたはずのつららが立っていた。
良く見れば、つららの背中では昼の姿に戻ったリクオが寝息を立てている。
皆が茫然と見つめる中、部屋への敷居をまたごうとした所で、つららがバランスを崩して倒れそうになった。

「危ねぇ!」

その巨体からは考えられないほどの素早い動きで青田坊がつららを支える。
思った以上に軽かった感触にふと二人の方を見ると、つららとリクオの体に紐が絡まっていて、倒れないよう支えようとしていた。

「ふう・・・気をつけるんだぞ、雪女。リクオ様が頭を打ったらどうする。」
「あ、ありがとう、青、首無。」

つららを助けはしたものの、まだ茫然と凝視している二人をそのままに、つららは部屋に入る。

「ほら、早く布団敷いて。」
「あ、ああ・・・」

つららは、やはり口を開け茫然としている黒田坊と河童にそう言うと、二人はのろのろとつららを凝視しながら布団を敷いた。
その布団にリクオをよっこいしょと下ろすと、つららは上着のボタンをいくつか外し、ズボンを脱がしてリラックスできる体勢にすると、布団を掛けてから眠り続けるリクオにニッコリと微笑みかけた。


「えーと・・・大丈夫なのか?」

首無がやっと我を取り戻してつららに声を掛ける。

「ああ、怪我の事?鴆様の治療って凄いのね。もうだめかと思ったけど、ほら、この通り・・・」

とつららが笑顔で右腕を上げて、『元気だ』という所を見せようとした所で、ゴキッと体の動きが止まった。

「い・・・いたたたたたたた!!」
「「「「雪女!!」」」」

4人が慌てて駆け寄り、つららの体を気付かう。

「大丈夫か!?」
「あいたたたた!さ、触らないで、青。右肩が!い、痛い!」
「うおっ、すまん!」

右側から支えていた青田坊が、ビクリと慌ててつららから手を放す。
反対側から支えていた首無が、他に痛い場所は無いかと心配そうにつららの顔を覗きこむ。

「さっきまで平気だったのに、何で!?」
「お前、リクオ様の事に夢中になって、痛みを忘れていたんじゃないのか?」
「そういうものなの!?いたたたたた!痛い痛い!」


その後、つららが持ち直すどころか動けるほどまでに回復していた事に、奴良邸の妖怪たちが大騒ぎしながらも無事を喜んだ。
皆は鴆の大手柄だとその治療技術を褒め称えたが、鴆は納得のいかない顔で、もう一度つららの肩の治療を行っていた。

 

 

 

 

 


予測されていた方もいたかとは思いますが、つらら復活です。
本当はつららが目覚めた時に若といちゃつかせたかったのですが、なんとなく側近達と絡んでもらいました。
青と首無がキレたのは、私の中ではこの二人は特につららと仲が良いと思っていまして。
で、青と首無にとって、つららは仲間の中でも大事。という設定にしてあります(具体的な理由は未設定)。
黒と河童は、つららが浚われても特に気にしていた様子が無かった、というのがあったものでね~。

なお、つらら復活のカギとなっている部分は、私の捏造設定です。
やはり私には、死にネタは無理ですね。

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