今日は清十字団妖怪探索合宿の出発日。
ゆらは気合いを入れて、準備をしてきた。
「巻さんや鳥居さんは、海水浴が目的見たいやけどなぁ。
ふふふ、今回は風呂場で襲われた時の対策もバッチリや。」
目的場所は『牛鬼滝』。
まさか同じ妖怪がいるとは思えないが、念のために準備をしてきたのだ。
撥水コーティングしたお札、お札を入れる為の水中用ベルトポーチ、etc.。
以前と違い、本家の跡取りとして優遇されている為、こうした装備も用意できるというわけだ。
「ま、奴良君と雪女もおることやし、大丈夫やろうけどな。」
と考えた所で、ゆらはハッとなって頭を大きく振った。
「あかん!何考えとんのや!妖怪なんぞ頼りにするなんて!」
「ゆらちゃ~ん、何してんの?」
「ハッ!家長さん!な、なんでもないよ、妖怪に遭わんよう、おまじないしとっただけや!」
思わず叫んだ言葉に、妖怪恐怖症のカナがびくりと反応する。
「や、やっぱり出るの?」
「さーてね、ふふふ(棒読み)。」
怯えてしまったカナは、それが本気なのか冗談なのか、追求する事も出来ない。
これで誤魔化す事が出来たと、ゆらは別の話に話題を変えて時間を潰しているうちに、清継と島が合流し、そしてリクオと及川氷麗が一緒にやってきた。
「あ、リクオく・・・ん。」
「げ、及川さん!?」
一緒に仲良く歩く二人を見て、カナと島が驚きの声を上げる。
二人はただ単に一緒に来た訳ではない。
なんと人目をはばからず、手を繋いで歩いてきたのだ。
「・・・なんとなく理由は分かるけどな。誤魔化す気はないんか、あいつら。」
ゆらがボソリと呟き、呆れた目でリクオを見た。
「あ、みんなー。今日も暑いね~。」
リクオは何時ものように笑顔を振りまきながら皆と合流し、やはり何時ものように清継が熱烈な出迎えをする。
話し辛そうにしていたカナと島を横目に、ゆらはさり気なくリクオの側によると、リクオとつららにだけ聞こえるよう話しかけた。
「雪女の有効活用もええけどな、場所をわきまえたらどうや?皆が見とるやろ。」
「あ・・・」
リクオはハッとして慌ててつららの手を離したため、つららはプゥっと頬を膨らませ、ゆらを睨みつける。
「これはリクオ様が涼しくなるようやっているだけよ。」
「他の奴らに、それ説明するか?」
「うぐ・・・」
正体を隠している以上、説明できるはずも無く、つららはぷるぷると震えながら口を紡ぐ。
そんなつららを『まぁまぁ、仕方が無いよ』と宥めるために、リクオはその頭を撫で始めた。
「「「!!!」」」
「とりあえず、他の皆を待とうよ。その間は木陰に居れば大丈夫だって。」
「は、はい。」
リクオに促されるまま木陰に入って行く二人に、カナが無言の圧力を発しながら、ゆらりと近付いていく。
「リクオ君・・・?」
「あ、カナちゃん?」
カナの迫力に、リクオは思わず後ずさりした。
そして自分がたった今した事が、周りからどう見えるか気が付いて、冷や汗を掻きどう言い訳したものかと、頭をフル回転させる。
「さっき、手を繋いでたよね?それに今も・・・」
「あ、あれは!ほら、氷麗って暑さに弱いから!ほら、貧血とか起こした時に倒れないように、ね?
今も大丈夫かなって、様子を見たんだよ。」
「ふ~~~ん。」
ははは、と作り笑いを浮かべながら、リクオは清継に、今度向かう妖怪伝説の話しを持ちかけた。
予想通り情熱あふれる演説が始まった為、これ以上リクオ達の事を詮索する事も無かった。
それから清十字団一行は、新幹線に乗って新大阪まで行き、特急に乗り換えて紀州線を南下することとなった。
乗り換えの時間を利用して駅弁を買おうとしたのだが、リクオとつららだけが、弁当を持ってきていると、待つ事に。
「おや?今の時期は傷みやすいから、お弁当は止めようと連絡しなかったかい?」
清継がそんな二人に疑問を投げかける。
彼は連絡時に『僕が奢るから』と気前のいい事も言った為、リクオとつらら以外全員が、弁当を持ってきていない。
「あー、うん。ボクのところは冷え・・・工夫しているから、大丈夫だと思って。」
「食中毒を舐めたら駄目だよ、奴良君。それに及川さんも。体が一番の資本なんだからね。」
「あはははは、今後は気を付けるよ。」
自分達を心配して言ってくれるのはありがたいが、つららが持っていれば夏の熱気も関係ない。
むしろ凍ってしまうぐらいだ。
そう思いながら、リクオはなんとなくつららの持っている弁当を確認しようとしたところで、ゆらがズカズカと近付いてきた。
「奴良君。まさか弁当って、及川さんが持っとるんとちゃう?」
「え?うん、何で知ってるの?」
予想通りの答えに、ゆらは『はぁ~~~』と溜息をつく。
「あんたら、皆の前で弁当渡すつもりやったんか。」
「あ・・・・」
そんな事をすればどうなるのか、ようやく気が付いたリクオが慌ててつららに弁当を出すよう指示する。
つららは予備で持ってきていた風呂敷に弁当箱を包むと、それを自分のリュックにしまい込み、元々弁当を入れていた保温バッグをリクオに手渡した。
「こ、これで大丈夫かな。」
「まったく。なんで私があんたらの心配せんなならんの。」
「心配しなくても結構ですよ。」
「見とるこっちの心臓に悪いんや!」
睨みあう二人の間に、まあまあ、とリクオが割って入る。
今はまだ自分の正体をばらしたくは無いのだから、ゆらの言う事ももっともだ、とつららを説得する。
不満が残るつららではあったが、リクオ様が望む事だからと、ここはあっさり引き下がった。
その後、特急の中で弁当を食べ終え、弁当箱を片付けた所で、つららが保冷バッグから梨と果物ナイフを取り出し、器用に梨を剥くと
「はい、どうぞリクオ君。」
「うん・・・シャリシャリ・・・良く冷えてて美味しいよ。つららも食べたら?」
と剥いた梨を、つららの手から直接リクオが食べた。
今、何が起きた?何故リクオの持ってきた保冷バックから、及川が果物とナイフを取り出したんだ?と全員が茫然としている中、真っ先に我に返ったゆらが顔をヒクヒクと引き攣らせた。
(雪女の手でよう冷えて美味しいやろうけど!それは分かるんやけど!)
「な、何考えとんの、あんたら・・・」
ゆらの震える声に、ようやく注目を集めている事に気が付いたリクオは、『どうしたのかな?』と首を傾げてから『ああ』と一人納得した顔をすると、屈託のない笑顔で皆に言った。
「あ、みんなも食べる?」
どれだけ注意しようが、天然でイチャつく二人を止める事は出来ない。そういうお話でした。
イチャつくつもりでやっている訳ではないので、気をつけようがないのです(^^)。
これは「白浜へGo!」と同じ話の中で、さらっと簡単に書く筈だった部分を、一つの話にしました。
話としては、「白浜へGo!」と「牛鬼滝の試練」の間の出来事となります。
1万Hit記念アンケートの第3位となった「リクつら+ゆら(ツッコミ担当)」のネタに丁度いいと思っもので。