牛鬼滝の試練(後篇)

「まったく、惚気るにも・・・・」
「巻?どうした・・・」
「・・・」

それまでの経緯を思い出して、さらに悪態を突こうとした所で、突然巻が黙りこむ。
その様子を訝しんだ鳥居も、そして何事かと首を傾げていたカナもまた、言葉を失い、うつろな目でリクオ達の方を見る。
三人は歩を速め、リクオ達の方へと近付いて行った。


「はは、さすがにここじゃ、梅は無さそうだね~。」
「そうですね、残念です。あ、でも入口にはマルメロが植えてありましたよ。」
「え?何か関係があるの?」

マルメロとは、洋ナシ型の黄色い実をつける小高木で、大抵は果樹として植えられている。
とは言ってもそうそう見かけるものではないのだから、リクオには一体何の木かまるで分からずに、素通りしてきていた。

「はい。牛鬼様の誕生花です。」
「ふーん、そんなことまで知っているんだ。」
「?」

どことなく不機嫌なリクオの返事に、『あれ?変な事言ったかしら?』と首を傾げるつらら。

誕生花を知っているという事は、当然誕生日も知っているという事。
しかも木を見ただけで思い出すほどしっかりと。
そう感じたリクオの嫉妬心を煽るには十分だった訳で、不愉快な事を言うその口をどう塞げば、彼女が最も驚くだろうかと、リクオの中に黒い衝動が生まれる。

そんな事に気付くはずもなく、つららは何か思い当たらないかと『うーん』と考え事をしていた所、突然リクオの背後から何者かが襲いかかってきた。

「リクオ様!?」
「う、うわっ!?・・・って、カナちゃん!?」
「!!!」

カナがリクオの背中に垂れかかってきた事に、リクオは顔を赤くして驚き、つららは顔を青くして驚く。
それだけでなく、巻と鳥居がリクオの左右の腕にそれぞれ自分の腕を絡ませ、体をピタリと寄り添わせてきた。
二人の胸・・・特に巻の大きな胸の感触に、リクオの視線が自分の左側に居る巻の胸に注がれる。

「リクオ様?いったい何をなされているのでございましょうかぁ?」

嫉妬の吹雪を纏わせて、つららが眼を光らせながらリクオに迫る。

「いや、ボクがやっているんじゃなくて!
 カナちゃん!巻さん!鳥居さん!何やってんのさ!」

明らかに様子がおかしい3人の様子に、リクオは『まさか妖怪の襲撃が!?』と危機感を募らせる。
だが、そんなリクオとは対照的に、つららはリクオが3人娘に抱き着かれて、喜んでいるようにしか見えなかったのだから、リクオに激しく嫉妬してしまう。
まぁ、実際鼻の下が伸びているのだから、つららの反応もあながち間違いではないのだが。

「あなたちも!いい加減にしないとかき氷にするわよ!!」
「ちょ!何言ってんだよつらら!落ち着いて!」


慌てふためくリクオに悩ましげに体を密着してくる3人の体からは、何本もの目に見えぬ糸が伸びていた。
その先は杉の木の上に佇む馬頭丸の元へと延びており、不満そうな顔をしながら、3人を操っていた。

「くくく、慌ててる慌ててる。」
「ねぇ~~、牛頭丸。本当にこれが修行になるの?」

馬頭丸の疑問も当然だ。
これでは単にリクオに嫌がらせ・・・いや、喜ばせているだけに過ぎない。
それとも、雪女に対する新手の嫌がらせだろうか?

「ふふん。妖の中には女に化けて、色事で隙を突こうとしてくる奴もいるだろう?
 それに冷静に対応できるようにする為の修行なんだよ。」
「ふーん、そういうものなのかな。」
「ああそうだ。」

もちろん口から出まかせである。
大体それでは友人を使う必要が無いし、他に人が、できればつららも居ないタイミングを狙うべきだ。

「おお?見ろよ馬頭丸。雪ん子がリクオの髪を凍らせたぞ。
 あれでよく側近だと言えるな。ハハハハ!」
「・・・・」

やっぱり、からかって楽しんでいるだけなんだ。
そう馬頭丸は思ったのだが、口に出せば間違い無くゲンコツが飛んでくるであろう事を考え、口に出すのを止め黙っている事にした。

山道では、ようやく後方の異変に気が付いた清継達が、ワァワァとリクオを中心に騒ぎ立てている。
その様子に、さらに牛頭丸が面白そうに笑い続けていた。





牛鬼様、リクオはただの旅行に出かけているだけです。修行ではありません(笑)。
妖怪スポットに行く=見識を広げる為の修行、というのが牛鬼様の中ではデフォルトになっているに違いない。と勝手に妄想した結果、出来上がった話です。

今回はブラックリクオに降臨してもらいました(笑)。
まぁ、牛頭丸の策略(?)により不発に終わりましたが。
あのまま暴走するのもいいかなぁと思いましたが、これはこれで良いなと思っています。

ちなみに、牛鬼様の誕生花の話は、単に私の趣味です。
花言葉は「魅惑」。いや、ぴったりですね(^^)。

今回はあまりにも長かった為、2ページに分けています。
2回に分けて掲載というのも考えたのですが、まぁ、いいか、と一挙掲載しました(^^)。

 

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