その日の朝、奴良邸は大騒ぎとなった。
何せ奴良組の跡取りであるリクオに、重大な異変が起きたのだから当然だろう。
どうやら昼の姿であるにも関わらず、中身だけは夜のリクオになってしまっているらしい。
たまたま泊まりがけで遊びに来ていた鴆が、直ぐに診てみたが原因も判らず、一体どうした事かと、特に側近達は気が気ではない。
中には、同じリクオ様なのだから、別に気にしなくても良いのでは、と呑気な事を言う者もいたが。
「まぁ、風邪みたいなもんだろ?ほっときゃ元に戻るって、気にすんな。」
「そういう問題ではありません!」
当の本人はいたって平然とした面持ちで、学生服に着替えていた。
てっきり普段着に着替えるものだとばかり思っていたつららは、ピシリと体を固まらせ、フルフルと震えながらなんとか声を絞り出す。
「あの・・・一応お聞きしますが、何をなさるつもりですか?」
「そりゃあもちろん、学校に行くに決まってんだろ?」
何を考えているんですかー、とつららが完全に固まった傍らで、鴆が溜息をつきながら手をヒラヒラと振った。
「そうだな、何時もの暮らしをしてりゃあ元に戻るかもしれねぇし、行ってこいよ、リクオ。」
「お、さすが鴆。話が分かるじゃねぇか。」
「な、な、何を言っているんですか!二人とも!」
鴆とリクオの言葉にようやく我に返ったつららが、リクオを学校に行かせまいと、手に取ろうとしていた鞄を素早く奪い取った。
「なんだ、今日は持ってってくれるのか?」
「違います!だいたい今のリクオ様が、学校で何時も通りに振る舞えるんですか!?」
「さあ?」
んなの知った事か、と言わんばかりの返答に、つららの両肩がわなわなと震えだした。
「リクオ様は人間としての暮らしも大切にしているのです。それを壊すような真似をさせるわけには・・・」
こりゃ修羅場か?と鴆はおそらく安全であろう廊下までそそくさと移動し、そこから二人の様子をニヤニヤしながら眺め始める。
そんな鴆をまるで居ないかのように、リクオは何時ものようにつららの腰に手をまわして抱き寄せると、顔を見降ろそうとして・・・出来なかった。
「なんか勝手が違うな・・・」
つららと同じ高さ・・・いや、若干上目遣いの目線で見つめ合い、唇が触れんばかりに顔を近付ける。
「わ、若!?」
昼の姿の時には考えられないその大胆な行為に、つららはボッと顔を赤らめ身動きが取れなくなる。
「鴆も言っただろ?何時も通りに行動してりゃ、元に戻るかもしれねぇって。」
リクオは悩ましげな視線をつららに絡ませながら、耳元に優しく囁く。
「だから、行かせてくれよ。お前が側にいて、俺を上手くフォローしてくれればいい。
それが出来るのはお前だけなんだ。」
そう言いながらつららの頬をそっと撫でると、チュッと軽く唇に触れるようなキスをした。
つららは全身から湯気が出ているのではないだろうか、というほど指の先まで真っ赤にさせ、顔を蕩けさせながらこくりと頷いた。
「なんだ、姿は昼でも結果は変わんねぇのか。ま、雪女相手じゃあ仕方がねぇか。」
あいつ、どっちのリクオも好きだしなー、と鴆は笑いながら、これ以上ここにいるのは野暮だと立ち去って行った。
自分で書いといてなんですが、「うひゃー」と悲鳴を上げそうな展開になってしまいました。
学校でいちゃつかせるつもりで、その前振りを書いたつもりだったのに、なんでこうなってしまったんでしょうか・・・
ちなみに、昼夜中身逆転は、書きたいネタの為の設定なので、特に意味はありません。
きっとこのままスルーしてしまうでしょう(笑)。