「うわ、及川さん、可愛い!」
「着物だぁ!貸して貰ったの?」
「うわー、良いな~!」
慣れぬ姿が恥ずかしいのか、頬を染める氷麗は、居心地が悪そうだ。 「おお、及川さんは着物も似合うねぇ!」 「す、素敵です…!及川さん~!」 男性陣も、珍しい姿に色めき立つ。 「あんた、出入りのときのあの格好、清十字の子達にも見られてる可能性あるのよ?雪女の着物なんて駄目よ。」 そう言って、楽しげにつららを飾り立てたのだ。 「ま~、可愛い。氷麗ちゃん、その着物も似合うわねえ。」 どうしたのだろうかと問えば、リクオはもじもじとしている氷麗に歩みよると、呆けたように、 『…!?』 清十字団の面々が、耳目を疑ったのは言うまでもない。 リクオは、それはそれは、蕩けるような笑顔で、つららの頬を撫でたのだ。 ようやく、ホッとした様子のつららは、嬉しそうに頬を染め、再び俯いてしまった。 「…何だ、こりゃ。」 「…あれか、新婚か?」 鳥居と巻がゴニョゴニョと囁き合ったのは、いたしかた無いだろう。 そのほっこりした姿に、カナは何やらモヤモヤとしてしまう。 (流石は清継君。) (生徒会長はダテじゃないねー。) などとコソコソ笑い合っている。 2時間ほどして、勉強に一区切りが付いたところで、清継待望の、屋敷探検に出ることになった。 「さあ!ゆら君、妖怪の気配はあるかな!?」 勢い込む清継に、半目のゆらは 「ハハハ、そーやなー、あっちの方が怪しいかな~。」 と、棒読みに呟いて笑顔を引きつらせている。 (…ごめん、花開院さん。) (…お世話になります。) (お土産、宜しく…!) 「あ~あ、骨…。」 と口を尖らせる馬頭丸を睨み、牛頭丸は苛立たしげに言う。 屋敷の片付けを手伝うハメになった二人は、古いお膳やツボを奥の納屋に仕舞いに行く所だ。 ブツクサとして、シャツにジーンズ姿の二人は、荷物を抱えて歩き出す。 「こんにちは…」 清継達は、若い二人に少し目を見張るが、仕事をしているところを見ると、家のお手伝いさんか何かなのだろう、と挨拶を交わす。 カメラを片手に入っていく清継ら一団と、やや困惑気味に少し離れて歩くカナとリクオと氷麗が続く。
巻達、女子が目を輝かせて氷麗に飛びつく。
「お手伝いさんのをお借りしたんです…。」
つららは、いつも通りの白い着物にしようかと思ったが、毛娼妓に止められた。
(うう…毛娼妓…絶対に遊んでるわ…。)
うっすらと涙目のつららに、若菜は
などとのんびり笑っている。褒めて貰えるのはありがたいが、氷麗は助けて欲しくて、そっとリクオを見遣れば、呆然とした顔でこちらをじっと見つめている。
「…リクオ、君…?」
「…凄く…綺麗だよ、つらら。」
と呟いた。
「…あ、ありがとうございます…。」
「及川さん…オレだって、綺麗だって思ってますよ…!」
島の悶える声も跳ね返しそうな勢いで、リクオとつららは二人の世界を作り上げている。
(…な、何だか…入り込めない雰囲気…。)
見ているこちらが、気恥ずかしくなってしまう。
そんな気恥ずかしさを含みながら、清十字のメンバーは、やっとこさ勉強会を始めた。
リクオは秀才肌なので、元から教えるのは上手いのだが、学年トップの天才(奇人)清継は、予想外に教えるのも上手い。サッカー一筋の島や、苦手科目の多い巻、鳥居などは、
団体の最後尾で祈るような表情のリクオとつららに、ゆらの視線が突き刺さる。
結果的に、妖怪を守るハメになり、ゆらは嫌味な兄の顔が浮かんで胃が痛むのだった。
「しょうがないだろ、とにかく化けないと、納屋まで行けないんだから。」
清継達がうろつく一帯を通らねばならぬ訳で、渋々人間の格好に化けている。
「お前がもうちょい早けりゃ、あいつらが座敷の中に居たのに。」
ややあって、廊下の向こうから、清継達がやって来た。
「さ、次はこの座敷だ。」