寄り添う3

「うわ、及川さん、可愛い!」

「着物だぁ!貸して貰ったの?」

「うわー、良いな~!」


巻達、女子が目を輝かせて氷麗に飛びつく。


「お手伝いさんのをお借りしたんです…。」

慣れぬ姿が恥ずかしいのか、頬を染める氷麗は、居心地が悪そうだ。

「おお、及川さんは着物も似合うねぇ!」

「す、素敵です…!及川さん~!」

男性陣も、珍しい姿に色めき立つ。


 つららは、いつも通りの白い着物にしようかと思ったが、毛娼妓に止められた。

「あんた、出入りのときのあの格好、清十字の子達にも見られてる可能性あるのよ?雪女の着物なんて駄目よ。」

そう言って、楽しげにつららを飾り立てたのだ。


(うう…毛娼妓…絶対に遊んでるわ…。)


 うっすらと涙目のつららに、若菜は

「ま~、可愛い。氷麗ちゃん、その着物も似合うわねえ。」


などとのんびり笑っている。褒めて貰えるのはありがたいが、氷麗は助けて欲しくて、そっとリクオを見遣れば、呆然とした顔でこちらをじっと見つめている。


「…リクオ、君…?」

どうしたのだろうかと問えば、リクオはもじもじとしている氷麗に歩みよると、呆けたように、


「…凄く…綺麗だよ、つらら。」


と呟いた。

 

『…!?』

 

清十字団の面々が、耳目を疑ったのは言うまでもない。

 リクオは、それはそれは、蕩けるような笑顔で、つららの頬を撫でたのだ。


「…あ、ありがとうございます…。」

ようやく、ホッとした様子のつららは、嬉しそうに頬を染め、再び俯いてしまった。

「…何だ、こりゃ。」

「…あれか、新婚か?」

鳥居と巻がゴニョゴニョと囁き合ったのは、いたしかた無いだろう。


「及川さん…オレだって、綺麗だって思ってますよ…!」


島の悶える声も跳ね返しそうな勢いで、リクオとつららは二人の世界を作り上げている。

 そのほっこりした姿に、カナは何やらモヤモヤとしてしまう。


(…な、何だか…入り込めない雰囲気…。)


見ているこちらが、気恥ずかしくなってしまう。


そんな気恥ずかしさを含みながら、清十字のメンバーは、やっとこさ勉強会を始めた。


 リクオは秀才肌なので、元から教えるのは上手いのだが、学年トップの天才(奇人)清継は、予想外に教えるのも上手い。サッカー一筋の島や、苦手科目の多い巻、鳥居などは、

(流石は清継君。)

(生徒会長はダテじゃないねー。)

などとコソコソ笑い合っている。

2時間ほどして、勉強に一区切りが付いたところで、清継待望の、屋敷探検に出ることになった。

「さあ!ゆら君、妖怪の気配はあるかな!?」

勢い込む清継に、半目のゆらは

「ハハハ、そーやなー、あっちの方が怪しいかな~。」

と、棒読みに呟いて笑顔を引きつらせている。

(…ごめん、花開院さん。)

(…お世話になります。)


団体の最後尾で祈るような表情のリクオとつららに、ゆらの視線が突き刺さる。

(お土産、宜しく…!)


結果的に、妖怪を守るハメになり、ゆらは嫌味な兄の顔が浮かんで胃が痛むのだった。

 

 

「あ~あ、骨…。」

と口を尖らせる馬頭丸を睨み、牛頭丸は苛立たしげに言う。


「しょうがないだろ、とにかく化けないと、納屋まで行けないんだから。」

屋敷の片付けを手伝うハメになった二人は、古いお膳やツボを奥の納屋に仕舞いに行く所だ。
 清継達がうろつく一帯を通らねばならぬ訳で、渋々人間の格好に化けている。


「お前がもうちょい早けりゃ、あいつらが座敷の中に居たのに。」

ブツクサとして、シャツにジーンズ姿の二人は、荷物を抱えて歩き出す。
 ややあって、廊下の向こうから、清継達がやって来た。

「こんにちは…」

清継達は、若い二人に少し目を見張るが、仕事をしているところを見ると、家のお手伝いさんか何かなのだろう、と挨拶を交わす。


「さ、次はこの座敷だ。」

カメラを片手に入っていく清継ら一団と、やや困惑気味に少し離れて歩くカナとリクオと氷麗が続く。

 

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