3時間目が始まるほんの少し前に、教師への遅刻の言い訳をようやく終えたリクオが姿を現した。
これでも短時間で済んだ方で、やはりこういう時は日頃の行いが物を言う。
ザワッ
リクオが氷麗と別れ教室に入ると同時に、クラスメイト達がざわつき出す。
「あ、みんなおはよう~(こんな感じだよな)。」
氷麗に散々教えられた挨拶を、なれない笑顔でリクオが実行する。
もっとも、性格が違うだけで昼と夜は同じ記憶を持っているのだから、別に教えられなくとも出来るはずだ。
それでもやはり、何時もとどうしても勝手が違ってしまう。
「おい、今何をした?」
「うそ~、あの奴良くんが、マジで?」
リクオの挨拶を無視して、ざわつきの中から様々な囁き声が聞こえてくる。
(なんだ?そんなに変だったか?)
皆の視線が自分に集中している事に、さすがのリクオも何かおかしいとクラスの様子を伺う。
そこに見知った顔が近付いてきて、ようやくリクオは安堵の息を吐いたのだが・・・どうにも様子がおかしい。
いや、殺気すら感じる。
「よお、カナちゃん。それにゆらちゃん・・・何か用か?」
気迫に押されて思わず素で挨拶してしまったリクオだったが、二人はどうもそれどころではないようだ。
「リクオくん。今、及川さんに何したの?」
「へ?あ~、あれか?」
リクオの脳裏先ほどの事が蘇る。
『それでは私はここまでです。どうか無事にお昼まで凌いで下さい。』
『大げさだな、つららは。・・・そうだ。』
大げさ、という言葉にふとイタズラ心が湧き、リクオはまだ繋いでいた氷麗の手をグイっと引っ張り抱き寄せる。
『リ、リクオ様!?』
驚く氷麗を面白そうに見ながら、リクオは氷麗の頬にキスをした。
『お別れのキスだ。昼は屋上だったな、待ってろよ。』
うん、あの時の氷麗は可愛かったな。
そう思いながら、至極真面目な顔をしてリクオは答える。
「お別れの挨拶って奴だな。なんだ、カナちゃんも『挨拶』して欲しいのか?」
そう言って顔を寄せじっと目を見つめると、カナは顔を真っ赤にさせパクパクと口を動かす。
「へぇっ?あれ?なんか何時もと雰囲気違わない?」
「まてい。」
そんなカナを庇うようにゆらが間に割って入ると、リクオを睨みながら問いただした。
「まさかとは思うけど、さっき腕組んどったんは、奴良君の方からとちゃうやろな。」
「なんだ、見てたのか。あれは氷麗の話を良く聞けるように、体を寄せさせていただけだぜ。」
そういえば学校に近付いたあたりから離れようとしていたが、どういうつもりだったのだろうかと、リクオは思う。
学校でも仲良くしているのだから、自分なりに何時ものように『仲良く』しているつもりなだけだったのだが・・・
「その物言い・・・ま、まさか・・・」
良く知った嫌な奴の顔が、ゆらの脳裏をよぎる。
まさかそんな筈は、と思いながらも、確認しなければと口をゆっくりと開けようとしたその時
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムが鳴り、リクオの周りに集まっていた生徒達も、『もっと聞きたかったのに』と後ろ髪引かれながらも徐々に席につき始める。
「ちっ。3限目が終わったら、少し話があるけどええか?」
「ああ、いいぜ。そうだな、屋上でどうだ。」
それは都合がええ、とコクリと頷くと、ゆらは未だに動揺しているカナを連れて、自分の席へと戻って行った。
夜若(外見昼若)の暴走を止められません(笑)。
昼の姿でやられる事には全く免疫が無い分、つららはもう振り回されっぱなしですね。
あ、でも夜の姿の時でも、ずっと振り回されてばかりいるから、あまり変わらないかな?
予想以上に長くなってきています。
上手くまとめることが出来ますかねぇ。