「本気か?」
「まさかあの黒羽丸が冗談など・・・」
「ちょっと、青に黒。『愛情のこもった看病』に決まってるでしょ。」
ざわつく側近達の言葉は、そのままリクオの思っている事であり、この真面目一辺倒なはずの下僕がいったいどこまで本気で言っているのか測りかねていた。
「え~と、黒羽丸・・・」
「本当です。」
キッパリと言い放つその真剣な顔は、冗談でこう言っているのではないと物語っている。
「『愛情のこもった看病』というのもあながち間違いではありません。
ただ、申し訳ありませんが詳しくは存じませぬ。
『愛情』にも様々な形があるで、色々試してみては如何でしょうか。」
「一応確認するけど、それって文献か何か?」
「いえ、先代の雪女から伺いました。ですから間違いありません。」
リクオは先代の雪女・・・雪麗の事を思い出す。
おじいちゃんをハゲ呼ばわりしたあの妖艶な雪女を・・・。
人をからかう事も大好きそうなあの時の様子から考えると、本当かどうか疑わしい気もするが、まさか娘が病気の時に嘘まではつくまい、とリクオは思う。
「よし、それで行こう。・・・って、ちょっと待った。
近付く事も出来ないのに、どうすればいいの?」
近付くだけで危険な状態で看病などできようはずもない。
リクオが疑問に思うのも当然のことなのだが、周りの者はそんなリクオの質問に不思議そうに顔を合わせた。
「ああ、リクオ様はご存じないのですね。」
「何が?」
「雪女に精気を与えればいいのです。そうすれば、しばらくの間は症状が治まります。」
首無の説明に、『え?それだけでいいの?』とリクオはポカーン口を開けてしまう。
「だったら最初からそれをしてればいいんじゃ・・・」
「うーん、それは無理があるかと・・・。」
「なんで?」
身近すぎて、かえって知らずに来たのか、と首無は溜息を吐く。
つららが自分から説明するとも思えないし、仕方のない事かと無い首をすくめた。
「まぁ、とりあえず牛頭丸でやってみれば解りますよ。」
「??」
「首無、その人選、あんた少し個人的感情交じって無い?」
毛倡妓の言葉にギクリと首無の頭が揺れる。
「ほら、あいつは見てくれは美形だし、上手く言えば喜んで引き受けそうだしね。いいイケニ・・・ゴホン。
別によくつららを苛めていたからと言う訳では・・・」
いや、個人的な意見による選択だな。とその場にいる誰もがそう思った。
首無は教育係として雪麗からつららを預かった経緯があるし、妹のように可愛がっているのは皆の知る所だ。
そして牛頭丸がつららを苛めているのに腹を立てている事も・・・
「まぁ別にいいけどねぇ。でもリクオ様は宜しいのですか?」
目を細め、何やら含みを持った笑みを浮かべながら、毛倡妓がリクオに話を振る。
その意図が分からず、リクオはもちろんと頷いたのだが
「若頭、宜しいのですか?雪女は口吸いで精気を取るのですが。」
「え?ああ、う~んと、どういうこと?」
まだ今一つ理解できていないリクオの側にささ美が近付くと、ほほを少し赤らめながらそっと耳打ちした。
「分かりやすく言うと、キスをして精気を奪うのです。」
「却下!だめだよ、そんなの!」
『口吸い』の意味を理解した途端、跳ね飛ばしたようにリクオは立ちあがる。
「しかし、精気を吸わせなければ看病できません。」
「じゃ、じぁボクがやる!」
そんな事、他の奴らになどさせるものか、と言わんばかりのリクオの宣言に、毛倡妓が「あら♪」と嬉しそうに笑い、他の者たちは皆驚きの声を上げた。
「駄目です!死んでしまわれたらどうするつもりです!」
「早まらないで下さい!」
「・・・え?死ぬの?」
さっき牛頭丸にやらせようとしていなかったっけ・・・とリクオは冷や汗を掻きながら側近達を見回す。
「いいじゃない、鴆様も言っていたでしょ。リクオ様は不思議なぐらい丈夫で回復力も高いって。
きっと大丈夫よ。」
「そ、そうなの?」
毛倡妓の一言により側近達も納得し、いや、リクオと首無は最後まで不安がっていたが、こうしてつららの治療チームが結成されたのであった。
側近達は、それぞれ自分こそが『愛情のこもった看病』を行うのだと、盛り上がっていた。