「・・・というわけで、つらら。その・・・く・・・く・・・」
「?」
つららの容体が小康状態になった時を見計らい、リクオ達はつららの部屋に入って治療を始める事を説明しようとしたのだが、耳まで真っ赤にしたリクオはなかなか肝心な話を切り出せないでいた。
「リクオ様、時間がありません。リクオ様が言えないのであれば私が・・・」
「わかった、言うよ!自分で言うから!」
首無の後押しでようやく決意したリクオが、ガシリとつららの両肩を掴んで正面から見据える。
「り、リクオ様・・・」
「つらら、ボクとキスしてくれ!!」
「「「え?」」」
言っている事は間違いではない。間違いではないが・・・
完全に固まってしまった側近達を他所に、あたふたとつららは慌てて自分の肩に置かれた手を取り、懇願するようにリクオを見上げた。
「リクオ様、駄目です。雪女に口吸いされれば、死んでしまうのですよ?」
「あれで通じたのかよ。」
さすがの青田坊も呆れるしかない。仲が良いのも、互いの事をよく解っているのも知っている。
だが、そうとは言え、限度というものが無いのか、と。
「大丈夫、ボクを信じて。」
そう言ってリクオはつららの体を抱き寄せると、つららが風邪の為にろくに抵抗できないのをいいことに、そのまま強引に唇を重ねた。
ズキューーーーーンンン!!
なんだかキスとは程遠い効果音と共に、つららがリクオに『口吸い』をはじめた。
つららにとっては不本意なのだが、弱りきった体が本能的に精気を求めてしまうのだ。
(うぁ・・・なんだこれ・・)
体中の力があっという間に抜けていくのをリクオは感じる。
そしてそれとは逆に、つららの目に生気が宿ってきた。
つららはなんとか自分の本能に逆らい、これ以上精気を吸い取らないようリクオの体を突き放した。
「リクオ様!だから言ったのに!」
「いいんだよ・・・つららを・・・」
治療する為に、と続けて言おうとしたのだが、どうにも舌が上手く回らない。
突き飛ばされても抵抗できずにその場に仰向けに転んでしまったリクオは、ハハハと力なくつららに笑いかけた。
「もう・・・あまり無理をなさらないで下さい。」
つららも直ぐにリクオを抱き起そうとしたのだが・・・体力までは回復できないようで、思うように動くことが出来ない。
「うむ、やはり体力回復が一番か。拙僧に任せるのだ!」
突然黒田坊が前に進み出てきたかと思うと、懐から何やら蠢く黒い物体を取りだす。
「ひいっ、なにそれ!」
「驚くでない、雪女。これは我が秘伝、滋養強壮栄養満点、どんなに弱っていようがたちどころに元気になるという、秘薬の材料なのだ。」
そう言って次々と取りだしたのは・・・
黒ヤモリ、ドジョウ、ヒキガエル、ムクノキの実、etc
共通しているのは、どれも黒色と言ったところだろうか。
黒田坊はそれらをまとめてビニール袋に入れると、おもむろに空中へ放り出し、それがつららの目の前に落ちてくると同時に
「暗器黒演武・打!」
と大量の暗器・・・金槌など鈍器ばかり・・・で袋を叩き潰した。
そして黒田坊がボロボロになった袋を剣で突き刺し持ち上げると、そこから赤黒いドロリとした液体が流れ出てくる。
「ヒイイイイ!!」
後ずさる雪女を横目に、黒田坊は滴り落ちる液体を器用に小瓶に集めると、ニヤリと笑って怯えるつららに突き出した。
「ふふふ、この奥義の凄い所は、暗器黒演舞によって惨殺された生物の『もっと生きたかった』という怨念が抽出され、凄まじいパワーを持つ所にある。」
黒田坊はそう言いながら、小瓶の液体を湯呑に全て入れると、今度は懐から焼酎を取りだし湯呑に注ぎ込む。
「さあ、これをぐいっと飲み干せば、たちどころに風邪など吹き飛ぶというものだ。」
ズイッと差し出された二つの液体の混じった湯呑から、なにやら得体のしれない匂いと気配が漂ってきた。
「ひいぃぃいいいい!!」
ブルブルと首を振りながらつららは逃げようとするが、思うように体が動かずあっという間に追い詰められる。
ふふふと不気味に笑う黒田坊が目の前に迫り、つららは覚悟してギュっと目を瞑った。
「怯えているだろうが。」
ゲシッと黒田坊の体を横から青田坊が蹴飛ばす。
その勢いで、黒田坊の持っていた湯呑の中の不気味な液体が布団の上へとばら撒かれた。
「あ、ああ~~~~!!おい!青田坊!何て事をしてくれた!」
「何が滋養強壮だ。そんな呪いが掛かっていそうなもの飲ませてみろ、逆に拗らせるぞ。」
涙目で怒る黒田坊に対して、フンッと悪びれもせず青田坊が答える。
それにウンウン、と周りの者たちが頷いているものだから、黒田坊はぐぐぐと怒りの矛先を収めるしかなかった。