撃墜王つらら 後編

「さて、そろそろ来るかな。」

昼休みになり、リクオはつららが来るのを待っていた。
ところがつららが来るよりも早く、巻と鳥居がリクオの前に駆け込んで来た。

「おい、奴良~。お前こんな所でのんびりしている場合じゃないぞ。」

「え?」

「まぁ、もう手遅れかもしれないけどね。」

「ええ?」

二人の言わんとしている事がなんなのか、リクオにはさっぱりわからない。
何の事?と首を傾げていると、巻がイラつきながらリクオの襟元を掴んで激しく揺さぶる。

「だから、及川さんが背の高い男と手を繋いで校内デートしていたらしいんだよ。いいのか?奴良。」

「え!?」

「あれ?巻、私が聞いたのは、大人びた人と抱き合っていたって。キスしていたんじゃないかって話だったけど。」

「ええ!?」

もちろんどちらも大嘘だ。
手を触れさえしていないのに、ここまで話が膨らむのだから、噂というものは恐ろしい。

そんなまさか、と驚きを隠せないリクオの視線の端に、トボトボと歩いて来る島の姿が映った。
島は、まるで口から霊魂が出ているかのような落ち込みようで、やがてリクオの側まで来ると、がくりと膝をついた。

「お、及川さ~~~~~ん。」

「え?ま、まさか本当に・・・」

うな垂れる島の言動に、鳥居と巻の言っていた事が本当なのではないか、とリクオの心に動揺が走る。
まるでそのタイミングを見計らったように、聞き慣れた鈴のような声が響いてきた。

「リクオく~~~ん、お昼ご飯一緒に食べませんか?」

「つらら!?」

「及川さん!!丁度いい所に!!」

「聞かせてもらうわよ!カッコいい人と一緒に居たって本当!?」

「え?え?」

まるで獲物を捕えようとするかのように、鳥居と巻はつららに迫る。
そういえば、隠れるのをうっかり忘れていた気がする、とハッとなったつららは、どう誤魔化したものかとアワアワと慌てふためいた。

「ち、違うんですよ、しょ・・彼はそういうのじゃなくて・・」

「やっぱり一緒に居たんだ!」

「その慌てっぷり、さては本当にキスしたとか?」

「な、何でそんな話になるんですか!?」

ガシッ

「「「え?」」」

話の飛躍っぷりに思考が追いつけないつららが目をぐるぐると回していると、突然リクオが肩に手をまわして抱きかかえてきた。
誰もがリクオの行動に唖然としていると、その隙にリクオはつららを無理やり連れて、ピューと勢いよく教室から駆け出して行った。

「・・・・・」

「えーと、もしかして、修羅場になるとか?」

「奴良って、ほんと及川さんの事になると凄いよね。」

「あー、それは言えてる。」

あまりの事にポカーンとしていた二人だったが、やがてこの後どうなるのか、少し離れた所でやはり茫然としていたカナを巻き込んで、面白おかしく会話を弾ませていた。

 

つららがようやく落ち着きを取り戻た時には、いつもの昼休みのように屋上に来ていた。
目の前には、驚き困惑した顔をしている猩影と、対照的に楽しそうな顔をしている牛頭丸がいる。
つららはふと横を見てみると、リクオは自分を脇に抱いたままの姿勢で、牛頭丸と猩影を睨んでいた。

「あの・・・リクオ様?」

つららは恐る恐るリクオの顔色を伺う。

「今日は、牛頭丸と猩影くんが、護衛をしてくれる事になりました。」

「ふうん、そう。」

明らかに不機嫌なリクオの返事に、つららは訳が分からず言葉を詰まらす。

「猩影くん、君に護衛をさせてしまうなんて、随分迷惑をかけたね。」

「気にしなくても良いですよ。いい暇つぶしになりました。」

「でもね・・・」

リクオはつららを自分の前に引きよせると、つららの背中におぶさるように抱きついた。
驚くつららの顔の横からリクオが顔を覗かせ、猩影と牛頭丸を睨みつける。

「リクオ様!?」

「つららにこういう事をしていいのは、ボクだけだって事を忘れちゃだめだよ。」

「・・・はい。」

目をすうっと細め答える猩影からは、どう考えても諦めたという雰囲気は感じられない。
牛頭丸の方はというと、面白くないと、ケッと顔を背けて唾を吐いていた。

「あの、リクオ様・・・」

「なんだい、つらら。」

リクオはつららの長い髪に顔を埋めて答える。
つららの体がピクリと反応したことに、リクオはさらに気を良くしたのだが、予想に反してつららは落ち着き払って答えてきた。

「なんだかこうしていると、昔を思い出しますね。
 リクオ様は、昔はこうしてよく私に抱きついたものです。」

別に顔を赤くする訳でも無く、ただ単に昔を懐かしんで喜んでいるようにしか見えない。

「でも、もう大きくなられたのですから、人前ではお控えくださいね。」

なんだかそれは、昔から自分に向けられていた態度そのままで・・・

「なんだ、てめぇ。実は『男』としちゃ見られていねぇンじゃねぇのか?」

リクオが疑問に思った事を、いつの間にか直ぐ傍まで近づいてきていた牛頭丸が、リクオにだけ聞こえるよう耳元でぼそりと呟く。

お、お、男として見られていない!?

そ、そんなバカな、とリクオはよろよろとつららから離れ、がくりと屋上に突っ伏す。

「リクオ様!?どうなされました!?まさかお腹イタですか!?」

その言葉はどう考えても子どもに向けられたものにしか思えず・・・それがリクオの心に止めを刺した。

 


今日の犠牲者

牛頭丸
猩影

男子生徒達多数

リクオ

 

中編 オマケ