「客室車両はここまでのようね。」
「・・・・」
さらに先頭車両の方へと進んでいった氷麗と牛頭丸は、客室乗務員の控室と車掌室のある車両に到達したようだ。
鉤形になっている通路をゆっくりと進んでいくと
ガシャーン!
突然あの狂犬が外窓を突き破ってくると同時に、牛頭丸に体当たりしながら肩に噛みついてきた。
「くそっ!こいつも生きてッ、ゲホッコホッ」
「牛頭丸!」
いつもなら気配を察知して敵の居場所を正確に把握して戦っていた牛頭丸だが、それが仇となって気配のない・・・生きてはいないが動いている、化け物(ゾンビ)の襲撃に対して無防備となってしまっていた。
ボスッボスッ
喰い込まれた肩を激しく揺さぶられる激痛に耐えながら、牛頭丸が狂犬の胸に銃口を押し当て撃ち放ち、ようやく狂犬が動きを止めた。
だが、それと同時にさらに2匹の狂犬が車内に飛び込んで来た。
パンパンッ
そのうちの1匹を氷麗が撃ち倒したが、残る1匹が組み伏せられ倒れたままの牛頭丸へと飛びかかった。
「ケホッケホ、ちくしょッ、カハッ」
只でさえ身動きの取れない状態で咳込んでしまっては、もはや抵抗のしようもなかった。
牛頭丸の喉笛に噛みついた狂犬は、そのまま首を振り牛頭丸の首を噛みちぎる。
おびただしい血と同時に「ヒューッ」という空気音が牛頭丸の喉から漏れ出し、ビクビクと体を震わせると、牛頭丸はすぐに動かなくなった。
「牛頭丸!」
パンパンッと再び銃声が響き渡り、牛頭丸の喉笛を喰い破った狂犬を弾丸が貫く。
全てが動かなくなってから、氷麗は牛頭丸の側に近寄ると、見開かれた目にそっと手をあてて瞼を閉じさせた。
「牛頭丸・・・・」
氷麗は無線機のスイッチを入れると、隊長に牛頭丸の死を伝えた。
一人となった氷麗はさらに探索を続け、不可解なファイルを見つけた。 それには近年急成長を遂げてきた製薬会社トヤマレラが関わっているようだ。 事の真偽はまだ入隊したばかりの氷麗には分からないが、そういう噂があるというのはあまり気持ちのいいものではない。 「ふう・・・今回の件とは別件だと思うけど、念のため証拠品として取っておこうかしら。」 そう氷麗は呟くと、ファイルを全て写真に撮り、目印をつけて元の場所に戻し捜索を続けた。
どうやらこの列車には特別な何か・・・あるいはそれについての情報を知る何者かが乗っていたらしい。
幹部養成所、などという施設をわざわざ作るほど人材育成に熱心だと聞いているが、秘密主義が徹底しているせいもあって、黒い噂が絶えない。
ウキヨエシティに対して強い影響力を持っており、ヌラーズ自体もその息がかかっていると噂された事もあるほどだ。