「で、いったいなんだったの?」
お涼の手当てを終えた後、リクオとつららは向かい合って畳の上に座り、二人の間にいるカナの羊毛を二人でワシャワシャと撫で楽しんでいた。
この羊の毛は見た目通り柔らかく、撫でているととても気持ちが良い。
「それがその、何故だかこう、体に勝手に力が入ってしまって。」
「勝手に・・・ねぇ。」
それだけであんな目にあったお涼が哀れだとリクオは思う。
ああ、でももし自分が抱きしめられている時に、つららが突然不機嫌になったら、自分もあんな目に遭うのだろうかと、ふとリクオは思ってしまい乾いた笑いが出てしまう。
「どうしました、リクオ様?」
「ん、いや、ボクもつららに体を締めあげられたら大変だな~って思っちゃってさ。」
「そ、そんなこと私がするはずないじゃないですか!」
「ん~~、まぁ、きっとそうなんだろうけどね~。」
つららがなおも抗議しようと両の拳を前に出して声を出そうとしたところで、いつの間にか部屋に入ってきた河童が声をかけてきた。
「おや、リクオ様もペットを持ったんですね。」
「あ、河童も飼う事にしたんだね。」
「ええ、『尻子玉』って言うんです。いい名前でしょ。」
それはいい名前なの?とリクオもつららも二人ともどう返事をしたものかと固まってしまう。
そんな二人を気にも留めずに、河童は二人の側まで来ると、両腕を頭の上に組んでいつものようにのほほんと話し始めた。
「それはそうとリクオ様。雪女に締めあげられるって言ってましたけど、何かしたんですか?」
「な、なんでもないわよ、河童!」
顔を真っ赤に染めながら否定した所で説得力など無く、何か話せないような事があったのは一目瞭然だった。
だが河童は今度もまたそれを気にする風でもなく、やはりマイペースに話し続ける。
「ふ~~~ん?まぁいいや。でもリクオ様、何時の間に雪女と抱き合うような間柄になったんですか?」
「「へ?」」
いったい何を言っているんだと、リクオとつららの口から同時に同じ言葉が発せられた。
「まぁ、オイラから見りゃ時間の問題だとは思っちゃいましたが、ずいぶんと手が早いですねぇ。
さすが鯉半様の御子息だけのことはありますよ。」
「ちょ、ちょっとまって河童。どうしてそんな話になるんだ!?」
今度はリクオが顔を真っ赤に染めながら慌てて立ち上がる。
その横では、顔どころか耳まで赤く染めたつららが顔を伏せていた。
「だってリクオ様。体を締めあげられるってことは、まず雪女に抱きしめられていなきゃならないでしょ?」
「う・・・」
「いや~~、さすがはリクオ様。雪女を連れていくのを許可したのも、その為だったんですね~。」
「ち、違うよ!ボクはただその・・・身の回りの事を自分でするのが面倒だと思ったからで、便利だったからだよ。」
「ホントに~?」
珍しく何時もの落ち着きを失ったリクオが慌てて言い訳するのを見て、河童が顎をしゃくりつららの方に注意を促す。
ハッとしてリクオがつららの方を見てみれば、しゅんと気落ちして沈み込んだつららの悲しげな顔が飛び込んで来た。
「い、いや、ゴメン違うんだつらら。
そりゃ河童の言うような事だって期待していなかった訳じゃないけど・・・ハッ!」
「ほら、やっぱり。」
「い、いやこれはその、ボ、僕、パーティーメンバー探してくるね!」
その場に居ることに我慢できなくなったリクオが、飛び出す様に部屋から駆け出て行った。
その飛び出していった扉を、したり顔の河童がニヤニヤと、そして全身を茹で蛸のように真っ赤に染めたつららが恨めしげに見続けていた。
end
お涼・・・ペンギン型ペット。稀に『呪いの吹雪 雪山殺し』の畏れを発動する。(睡眠効果のある攻撃をする) なお、カナちゃんを初め清十字団一行は冒険者として登場しないので、この世界にはいない事になります。
注釈
ペット・・・何らかの特殊能力をたまーに発揮して冒険の手助けをしてくれる謎の生物。
カナ・・・羊型ペット。たまに癒しの力を発揮する。(飼い主のhpを少し回復する)
このゲームでは10種類のペットがいて、それぞれ異なる特殊能力を持っています。
で、効果はそれぞれ本人にあったタイプを選び、名前はこの二人に関してはすんなりと決まりました。
若菜さんでも良かったのですが、ネタとしてはカナちゃんの方が面白いと思いまして(^^)。
ですが機会があれば、ネタとして登場させたいもものですね~。