お見合いをぶち壊せ! ~2

「やはりベタだけど、『将来を誓った相手がいる』というのが最も効果的だね。」
「鴉天狗も、それなら理由になるとでも言いたげな物言いであったな。」
「そうは言っても黒田坊、誰にする気?この娘その手の噂になりそうな事、ちっともしてないと思うわよ?」
「雪女なのにねぇ~~~。」
「いや、ある意味雪女らしい事はしているぞ?本人に自覚が無いだけってやつだ。」
「「「ああ、そういえば・・・。」」」

側近達は、自分たちよりも年上だろうに子どものように振る舞う困った男と、まだ若いのに組をしっかり切り盛りしている大男の事を思い浮かべる。
だが、皆が同時に溜息を吐いた。

「駄目だ駄目だ。片方はそういう畏れを持っているから、演技力は抜群だろうがなぁ。」
「雪女が首を縦に振るわけ無いよね~。」
「うむ、もう一人はその点は問題無いだろうが、やはり・・・。」
「直ぐバレるわね。演技も下手そうだし。」
「やはり本家の、雪女とも気心の知れた者が良いんじゃないかな。」
「ちょっと、さっきから何私抜きで話進めているのよ。
 おまけに何の事だか良く分からないのだけど?」

自分のことなのに置いてけぼりにされていた氷麗が、口を尖らせて何を言っているのか説明してくれと訴えたのだが、それを見て皆はもう一度深く溜息を吐くだけだった。

「なんでそこで溜息なのよ!」
「声が大きいぞ、雪女。リクオ様がやってきたらどうする。」
「そんな事言ったって青、私抜きで話しを進めたって、どうにもならないでしょう?」
「ま、そりゃそうだな。」

青田坊が笑いながら氷麗と楽しそうに話しているのを見て、ふと首無が何かを思い付いたように手をぽんっと打った。

「そうだ、青田坊ではどうだ?
 リクオ様の護衛でずっと一緒に護衛をしていたのだから息も良く合うだろうし、他の者達が知らないうちに、という言い訳も十分に立つ。」
「青田坊とねぇ・・・」

 

 

 

 


カコーーーン

静かな茶室に、中庭からししおどしの甲高い音が鳴り響く。
何時もとは違う白に薄紅色のグラデーションのかかった華やかな着物に身を飾った氷麗が、一人の男の妖と互いに正座して向かい合っていた。
彼にしても派手さこそはないが紋付き袴の正装で身なりを整えており、緊張した面持ちで氷麗が準備しているかき氷を、固唾を飲んで見守っていた。
手から吹き出したきめ細かな氷でかき氷を盛り終えると、氷麗は慣れた手つきで餡を添え抹茶を掛ける。
そしてスッと氷鉢を差し出すと、目の前の男にお辞儀をした。

その男の妖・・・氷麗の見合い相手・・・も氷麗に対してお辞儀をすると、氷鉢を手に取りかき氷をそっと食べ始めた。
かき氷を食べる妖の隣には、仲人として彼の組の相談役がいるのだが、先ほどからどうにも落ち着きが無い。

彼の目線は、二人と氷麗の仲人の間を忙しなく動いていた。

「おや、何か気になる事でも?」
「い、いえ、その、まさか仲人に奴良組特攻隊長の青田坊様が来られるとは思ってもいなかったので。」
「な~~~に、うちの大事な側近頭の見合いだ。俺が来るのも当然というものさ。なぁ?氷麗。」

青田坊が『氷麗』と言った途端、その場に緊張感が走る。
現代では名を呼ぶ事をそれほど気にしない妖が増えてきているとはいえ、見合いの席で親族でも無い者が名前を呼び捨てにするというのは、見合い相手に失礼というものだ。
形式を重んじる場であるのだから、名前を呼ぶという事は、それだけで『自分達は親密な関係にある』と言っているようなものである。

「ちょっと青田坊、見合いの席で失礼よ。
 何時も言っているでしょう?あなたはもう少しその場に合わせた言葉遣いをしなさいって。」

青田坊に注意する氷麗を見て、見合い相手はさらに驚いた。
自分よりはるかに年配で、奴良組の幹部をしている、それも『仲人』として来ている青田坊を、まるで対等の相手として叱っているではないか。
それも叱り方もどう考えても親しい者、それも常に一緒にいるかのような、普通の仲では無い間柄であるようにしか思えない。

「あ、あの、青田坊様は『仲人』ですよね?」
「え?あ~~~、もう、青田坊。ばれちゃったじゃない。」
「へ?」
「お二方、申し訳ありません。実はワシと氷麗は将来を約束した仲でしてね。
 鴉天狗がどうしても信じないので、こうして直接説明しようと思ったんでさ。」
「へ?え?」

戸惑う見合い相手とその仲人に、氷麗は両手を揃えて深々とお辞儀をしてお詫びする。

「本当に申し訳ありません。事前にお断り出来れば良かったのですが。」
「お、お二人はどうして、その・・・」
「こいつとはリクオ様の護衛でずっと一緒に任務をしていましてね。
 で、まぁその、気が付いたらこうなっちまっていたって訳です。」

二カッと笑うと青田坊は氷麗の肩をぐっと引き寄せ・・・

 

 

「誰がこんなの信じるの?」
「全くだ。ありえねぇだろ。」

息の合った氷麗と青田坊のツッコミに、首無が無い首を竦める。

「良い線いってると思ったんだけどな。今だって息がぴったりじゃないか。」
「大体、これじゃあ俺がロリコンみてぇだろ。」
「ほんとよ、青田坊がロリコンだったらリクオ様のご学友が危ないから、とっくの昔にクビになっているわよ。」
「・・・雪女、それだと自分が子ども体型だと認めているようなもんだぞ。あ・・・」

二人のやり取りに、いつもならここでキレる所なのにと、首無が思わず口を出してしまいハッとする。
藪蛇を突いてしまったと構えたのだが、なぜか雪女特有の背筋が凍るような冷気が流れてくる事はなかった。
氷麗は首無の言葉に特に怒るわけでもなく、むしろ呆れたような視線を向けているだけだ。

「何を言っているのよ首無。リクオ様は総大将の血をしっかり継いでおられるのよ?
 総大将も2代目も、
真性のロリコンじゃないの。
 リクオ様がそうであるのも疑いの余地ないわ。だから今ぐらいで丁度いいのよ。」
あまりはっきり言うなよ、なんだかこっちが情けなくなってくるじゃないか。」
「とにかく、俺でやるってのは却下だ。他の奴を考えようぜ。」

確かに仕方が無いな、と一同は新たな相手は誰が良いだろうと頭を捻るのであった。


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