お見合いをぶち壊せ! ~3

「ふむ、では拙僧では・・・」
「却下よ。」
「な、何故だ!」

最後まで聞かれる事もなく速攻で却下された事に、黒田坊はこのイケメンで妖怪No.1を争う私の何処がいけないのだと、ムキになって氷麗に詰め寄る。
それをドウドウと後ろから青田坊が羽交い絞めにし、まぁまぁと毛倡妓が黒田坊の胸を軽く叩いた。

「お前、この前飲みに行ってただろ?」
「うむ?ああ、青田坊と行った時の事か。」
「二人で何件も梯子したやつか。まぁそこそこ楽しかったな。」
「拙僧は楽しかったぞ。」
「それがいけないって事よ。」
「どうしてだ?」

不思議そうに首を傾げる黒田坊に、皆が溜息を吐いた。

「雪女と付き合っている妖が、夜な夜なその手の店で遊んでいたとしたら、どうなると思う?」
「あ・・・」

氷麗に限らず雪女という妖怪は、そのほとんどが愛情が深い分、得てして嫉妬心も強い。
氷漬けにされるだけでも、まだ幸運な方だろう。
振られるだけで済めばよいというのは甘い考えで、その際肺まで氷らされるか、死んだ方がマシな目にあわされるかもしれない。

将来を約束した、というほどの間柄であれば、殺されるか、永遠に氷の中に閉じ込められる可能性すらある。

「黒田坊があちこちで遊んでいるってのは、有名だからね~。」
「説得力が全く無いだろう?」
「むむむ、確かに。」
「ん?ちょっと待て。ワシも黒田坊といつも一緒に遊び歩いているんだぞ?」

なのにどうして最初の候補はワシだったんじゃい、と青田坊は首を傾げたのだが、首無たちは互いに顔を見合わせると、可哀想な物を見るような目で青田坊を見た。

「お前は大丈夫だ。保障するよ。」
「そうそう、その手の噂も聞かないしねぇ。」
「まぁ、向き不向きってのがあるって事なんじゃないの?」

なんでじゃーーーー!と青田坊は黒田坊を羽交い絞めにしながら仁王立ちしたが、みなは素知らぬ顔で話を続ける。
その事に青田坊は不貞腐れながらも、黒田坊を解放してドカッと腰を降ろすと、再び協議に加わり話しを続けた。

「そうだな、黒羽丸はどうだ?雪女とは幼馴染だし、昔はそういう噂もあったぐらいだからな。」
「え?そうなの?私知らないわよ。」
「ほんとにあんたって娘は・・・小さい頃はあれだけ仲が良かったじゃないの。」
「でも今は疎遠ではなかったか?」
「あ、オイラ、二人がちょくちょく人目のつかない所で会って話しているの見たよ。」
「何ですって!?まさか氷麗、ほんとに黒羽丸と!?リクオ様はどうするのよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、なんで黒羽丸とそういうことになるのよ。」

ホントに~~?と変な目で氷麗を囲み見る皆に、氷麗は口を尖らせ両手を振り上げた。
首無たちは冗談だよと笑って氷麗を宥めると、黒羽丸とどう繋がりをつけるかと話し合い始めた。

「第一、疎遠になんてなってないわよ。三羽鴉とはずっと仲良しなんだから。」
「へ?それこそ以外だな。むしろ余計に黒羽丸とそういう仲に、というのに信憑性を持たせることが出来るぞ。」
「黒羽丸とねぇ・・・」

 


カコーーーン

静かな茶室に、中庭からししおどしの甲高い音が鳴り響く。
何時もとは違う白に薄紅色のグラデーションのかかった華やかな着物に身を飾った氷麗が、一人の男の妖と互いに正座して向かい合っていた。
彼にしても派手さこそはないが紋付き袴の正装で身なりを整えており、緊張した面持ちで氷麗が準備しているかき氷を、固唾を飲んで見守っていた。
手から吹き出したきめ細かな氷でかき氷を盛り終えると、氷麗は慣れた手つきで餡を添え抹茶を掛ける。
そしてスッと氷鉢を差し出すと、目の前の男にお辞儀をした。

その男の妖・・・氷麗の見合い相手・・・も氷麗に対してお辞儀をすると、氷鉢を手に取りかき氷をそっと食べ始める。
かき氷を食べる妖の隣には、仲人として彼の組の相談役がいるのだが、先ほどからどうにも落ち着きが無い。

彼の目線は、二人と氷麗の仲人の間を忙しなく動いていた。

「仲人殿、何かお気に障る事でも?」
「い、いえ、その、まさか仲人に奴良組3代目直属の三羽鴉様が来られるとは思ってもいなかったので。」
「やはり私のような者では務まりませんか。失礼いたしました。」
「い、いえ、その、まだお若い上に未婚であるのに・・・その・・・。」

普通、仲人というのは既婚者がなるものであり、どうしてもという場合でも年配者がなるのが普通だ。
いくら自由闊達が売りの奴良組とはいえ、他に人材などいくらでもいようものなのに、なぜ黒羽丸なのだと訝しむのは当然だろう。
だからと言って正面切って文句を言えるものでもなく、思わず出してしまった言葉を口を濁して誤魔化すしかなかった。

「やはり無理があった様だな、氷麗。」
「そうね、黒羽丸。」

仕方が無いというように溜息をつきながら、氷麗と黒羽丸が互いに顔を合わせる。
それを見た見合い相手とその仲人が、驚きのあまり目を大きく見開き二人を凝視した。

「あ、あの、三羽鴉様は『仲人』ですよね?」
「お二方、このような仕儀となり誠に申し訳ありません。
 実は私と氷麗は将来を約束した仲でございまして、親父殿がどうしても信じない為に、こうして直接ご説明させて頂こうという次第です。」
「へ?え?」

戸惑う見合い相手とその仲人に、黒羽丸が深々とお辞儀をして説明すると、それに合わせるように氷麗もまた両手を揃えて深々とお辞儀をしてお詫びする。

「本当に申し訳ありません。事前にお断り出来れば良かったのですが。」
「お、お二人はどうして、その・・・」
「私たちは、いわゆる幼馴染という間柄でございます。
 それで、その、いつの間にか互いを意識するようになりまして・・・」

申し訳なさそうに顔を伏せながらも、黒羽丸と氷麗は互いに目を合わせると・・・

 

 

「ちょっと待ってよ、これ、無理でしょ。」
「なんでだ?雪女。とても自然な感じがするぞ。」
「そうよ、むしろ本当にそうなっててもおかしくないくらい違和感ないわ。」
「ああ、全くだ。」
「むむ、拙僧には無理だというのに、黒羽丸め。」
「そこ、変な所で対抗心出さないの。」

これは上手くいきそうだと、更なる展開についてアレコレ話し始めた首無たちだったが、河童の一言にピシリと凍りつく事となる。

「ん~~、黒羽丸って、こういう嘘って吐けないんじゃない?」
「そうよ、出来る訳ないでしょう?」
「「「「あ・・・・」」」」

考えてみれば、あの堅物黒羽丸が、氷麗の為とはいえこうもスラスラと嘘が付けるとは到底思えない。
任務遂行の為ならリクオ様の言葉さえ無視するほどの超堅物だというのに。

『そんなに嫌なら、直接断わればいいだけだろう。』

と言って、この芝居に加担することを断わってくるに違いない。
いや、そればかりか彼が『気を遣って』断わりの口上を述べに行ってしまいかねない。

「駄目か・・・。」
「巻き込もうとした時点でアウトだな、こいつは。」
「やはりここは拙僧が・・・。」
「いや、だからアンタじゃ無理だって。」
「ねぇ、コレまだ続くの?オイラそろそろ飽きちゃったんだけど。」

好き放題話し続けるリクオの側近達の会合は、まだまだ続きそうだ。


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