花遊び2

「それじゃあ、まずは『オレンジ』。」

『花嫁の喜び』に『愛らしさ』。きっとつららは顔を真っ赤にして慌てているに違いない。
アイロンも心配だしね、とリクオはニヤつきながら顔を上げてつららを見たのだが・・・彼女の視線は洗濯物に向いたままで、まるで何事も無かったかのようにアイロンがけを続けている。

「では、『秋海棠(シュウカイドウ)』です。」

・・・あれ?何か変だな。とリクオは訝しく思いながら今言った花の花言葉を調べた。


『片思い』!?


(え?あれ?ボクが勝手にそう思っているだけだって事?え?ええ!?)

あまりにも予想外の花言葉に、リクオは眩暈を覚えた。
いや、何かの間違いかもしれない。きっとそうだ。とリクオはなんとか気を持ち直し、予定通り『しりとり』を続けた。

「あ・・・えーと、『梅モドキ』。」

『明朗』で、いろんな事を知っていて(知恵)、そしてボクに『深い愛情』を注いでくれている。
そうだよね、つらら?

そう思いながらリクオは再びつららの顔を見ようと目線を上げると同時に、つららの口から答えが返ってきた。

「そうですね、『金鳳花(キンポウゲ)』です。」

随分と早いな、と思いながら再び視線を落として調べてみれば、意味は『栄誉』『誉れ』、そして


『子どもらしさ』


・・・・そ、そりゃボクはつららより年下だし、生まれた時から世話になっているって聞いているけど・・・でも、もう妖怪としては大人になったんだよ?
え?てことは、『子どもとして愛情を注いでいる』っていうこと!?

いやいやまさか、でもつららならあり得る。とプルプルと手を震わせながら、リクオはそれでも『しりとり』を続けようとした。

「じゃ、じゃあ、これでどうかな。『芥子(ケシ)』。」

『恋の予感』『陽気で優しい』『思いやり』。これでどうだ!となんだかやけ気味に心の中でリクオが叫ぶ。
その目は少し涙目になってきていて、もし誰かがこれを見たら、なんとも奇妙な光景に映っただろう。

「『著莪(シャガ)です。』

ほとんど即答で返ってきた言葉の意味を調べてみれば、リクオの体がピシリと硬直し、そして手からポロリと本と携帯が落ちた。

『反抗』に『抵抗』、そして『決心』。・・・『恋の予感』を全否定!?

つらら・・・もしかして本当に、ボクの勝手な勘違いだったとでもいうの?
それとも、ボクの事が嫌いになったとか?
ま、まさか誰か好きな奴が出来たとか・・・・!!

リクオの頭の中で色々な想いがぐるぐると駆け巡り、夜の姿でも無いのに髪の毛が真っ白になったように見えてしまう。

「あ・・えと・・」
「あら?もしかしてもう降参ですか?」

降参というか、もうとにかく終わって欲しいというか・・・と、とりあえず何か言わないと。
そう思ってリクオは再び携帯を持ち直すと、新しい花の名前を探し出した。

「『カトレア』・・・あ、いや、つららには『ガマ』の方が合っているかな。」
「・・・」

あれ?返事が無い。その事に気が付き顔を上げてみると、アイロン掛けをいつの間にか終えていたつららが、フルフルと肩を震わせていた。
背後に吹雪が起きているように見えるのは、目の錯覚だろうか。とリクオは目をゴシゴシと擦る。
よく見れば、つららの視線は自分の手元・・・携帯に注がれていた。

「しまった!本で隠すの忘れ・・・はっ!」
「リクオ様・・・?」

イカサマがばれた!とリクオは慌てて携帯を背中に隠したのだが、もちろん今更そんな事をした所で、手遅れというものだ。

「あははは、ばれちゃったか。ほら、普通にやったらすぐ終わっちゃうでしょ?
 少しでも長くつららと遊びたいなーって思ってさ。」

リクオは頭をフル回転させ、なんとか誤魔化そうともっともらしい事を言っているつもりなのだが、何時もとは違い、何かつららの様子が益々怖いものへと変わっているような気がする。

「つららが相手してくれないと面白くないし・・・・あの、つららさん?」
「リクオ様。」
「は、はいっ!」

ギョロリと目を光らせ睨んでくるつららに、思わず正座し背筋を伸ばしてリクオは答えた。
おかしい、何時もならこれでこっちのペースに乗せられるのに・・・と何故こうなったのだとリクオは不思議でたまらない。

「意味を知った上で、私は『カトレア』が似合わないと、『ガマ』なのだと、そうおっしゃったというのですね?』
「は?」

リクオは慌てて携帯を見直す。


カトレアの花言葉:優雅な女性、成熟した魅力

ガマの花言葉:従順、素直、慌て者


ドバッと全身から汗が噴き出してくるのがリクオにも分かる。
別につららに合わないからと思って『カトレア』を取りやめた訳ではない。
ただ、検索で後から出てきた『ガマ』の方がより合っていると思っただけで、最初は『カトレア』にしようとしていただけだ。
しかし、確かに捕えようによっては『お前に大人の女性の魅力など無い』と言われたと勘違いしても不思議はないだろう。

そしてまさに、今のつららがそうである事は疑いの余地が無い。

「急いでアイロン掛けを終わらせて、ようやく花しりとりに集中できると思ったのに・・・。」
「つ、つらら・・・えーとそれは誤解で・・・」

つららの背後で渦巻く吹雪が怖い・・・リクオは、もしかしたら明日は学校に行けなくなるかも、とゴキュリと喉を鳴らした。

「ど、どうせ私はお母さんみたいに色気なんて無いですよ!!
 そんなに大人の女性が好きなら、毛倡妓とでも遊んで下さい!!」

つららは足元にある物を吹雪で撒き散らしながらそう叫ぶと、バターン!と襖を勢いよく開き部屋を飛び出していった。

「え?ちょ、ちょっと待ってよ!つらら!」
「リクオ様なんてもう知りません!!」


立ち去って行くつららの後ろ姿を茫然と見送っていたリクオが、がくりと頭をうな垂れた。

「・・・もしかして・・・もしかして・・・本当にボクの事を嫌いになったんじゃ・・・」

最後の花言葉にあれだけしっかり反応していたということは、やっぱりそれまでのやり取りも、ちゃんと分かった上での事に違いない。
そんなリクオにとって最も認めたくない結論に辿り着くと同時に、リクオの体がパタリと畳みの上に沈んだ。


それから数日間、日常においてリクオを意図的に避け、護衛の時でもプウッと頬を膨らませて顔を背けるつららの姿と、そんなつららを見て、まるで『この世の終わり』が来たかのような暗い顔をしているリクオの姿が見られたという。

end

 

いつかまた花言葉のしりとりで話を作ろう、と思っていたのがふとしたきっかけで出来上がった作品で、「しりとり遊び」「言葉遊び」の続編です。
リクオがつららで遊ぶつもりが、見事に撃沈されてしまいました(笑)。

補足説明ですみませんが、つららはアイロン掛けの間は仕事に意識を集中していた為、何も考えずに適当に答えていただけでした。
つまり、花言葉を意識し出したのはリクオの「カトレア」からという訳です。
話の中ではっきりと分かるように書きたかったのですが、どうにも上手くいかなかったので、ここに書かせて頂きました。

花言葉しりとりも、探せばけっこう上手く見つかるものですねぇ。
作っていて楽しかったです。次は何して遊んでみようかな?(^^)


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