まずは入学しよう その2

「まぁいんじゃないのリクオ様。ほら、役得だと思ってさ。」

どう言ったものかと頭を抱えていたリクオの後ろから、なんだか良く聞いた間延びした声が聞こえてくる。
まさかこの声は・・・と恐る恐る振り返ったリクオの目に、手に水かきのある、よーく見覚えのあるノームがそこにいた。

「河童!?なんでここに!?」
「ん~、オイラ、雪女の護衛を任されちゃってさ。ほら、女の子の旅って色々危ないって言うでしょ?」
「ええ!?そんなの聞いてないよ!?」

驚くリクオの側につららは戻ってくると、にこりと笑いながら答えた。

「リクオ様、屋敷を出られる時に『何か一大事でも起きない限り、家の事でいちいち報告しなくもいいからね!』とおっしゃったではありませんか。」
「つららは知っていたの!?」
「それはもちろん。私の護衛ですからね。」

その時ハッとリクオは気が付いた。
そういえばここまで来る道中がやたらと安全だったという事に。
つららは確かに自分を守る為に武芸を身に付けてはいたが、いかんせん外見はか弱い女の子だ。
それがまったくと言っていいほど危険に遭遇しなかったのは、『つららの護衛』という名目で河童が自分を守っていたからではないか。
いやもしかしたら、他のメンバーまでいるかもしれない。その考えに至ると、リクオは全身から大量の冷や汗を掻き始めた。

「も、もしそうなったら、まともな冒険なんてできない・・・。」
「あ、その辺は大丈夫ですよ~。オイラ達もリクオ様の成長を楽しみにしていますから、そこまで関わったりしませんって。」
「『達』!?今『達』って言ったよね!?」
「・・・オイラもって言いましたよ~~、リクオ様。かなり疲れているようだし、もう眠ったらどう?」
「いやいや、聞き間違いじゃないって!」

なおも食い下がろうとするリクオの肩に、ポンっとバスタオルが置かれた。

「リクオ様、もうお着替えは用意しておきましたから、お風呂にお入りください。」
「ちょっと待ってよ!ホントに大丈夫なの!?」
「まぁ大丈夫なんじゃないかな~。」
「さあさあ、お風呂に入って下さい。私も入りたいですし。」

強引に自分の背中を押し始めたつららの一言に、リクオは今までの驚きが全て吹き飛ぶほどの衝撃を受けた。

「つららもここでお風呂に入るの!?」
「他に何処で入れというのですか、リクオ様。ここ、一応男子寮側ですよ。」
「そうなの!?」
「はい。リクオ様のお世話をするために、学長に無理を言って部屋を改装してもらったんです。」

何かおかしいとは思っていたが、やはりこの部屋は特別製だったのかとリクオは呆れてしまう。
学生寮とはいえ、せっかく普通の暮らしが出来ると思っていたのに、これでは台無しというものだ。

「そうそう、青達・・・じゃないや、工事の人たちも頑張ってくれてさ~。」
「やっぱりいるんじゃん!」
「まぁまぁリクオ様。そういう訳で、私、共用トイレやお風呂使えないんです。」

それ以前に、そもそも女子寮側に部屋を取ればいいだけのことだとリクオは思う。
そうは思ったのだが、つららの事だ。きっとここから離れた女子寮側に入る事はないだろう。
では男子寮側の部屋に入ったとしたら、どうなるだろうか?

「あ、リクオ様、普通の男子部屋には個人風呂ありませんよ~。まぁ、雪女が他の男達と同じ風呂に入ってもいいのなら別だけどさ~。」
「それは絶対ダメ!!」
「そんな事出来る訳ないでしょ!?」

同時に叫び声を上げた二人に、河童は満足げに目を細めると、リクオの肩をポンと叩いた。

「じゃ、同じ部屋で暮らすしかないですよね、リクオ様。」
「う・・・。」
「ちょっと待って河童。隣の部屋でしょ?ほら、扉だってあるんだし。
 リクオ様だってもうお年頃なんですから、私が同じ部屋に住むなんて、そんな事できるわけないじゃない。」

つららのとぼけた発言に、リクオと河童は顔を見合わせると、同時に溜息を付いた。

「リクオ様、ホントの事、言っちゃっていい?」
「ん~~、まぁ、これ以上騒ぐのも疲れたし、放っておいていいよ、もう。」
「了解~~~。」

考えてみれば、屋敷にいた時も『一つ屋根の下』で過ごしてきたのだ。
自分たちにとってはどうという事でもないはずだし、つららが自分を起こしに来る為に朝早くから男子寮を歩く、などというのは危険極まりないように感じる。
やはり自分の世話をしてもらうのだから、一番近くにいた方が良いに決まっていると、リクオは自分を納得させた。


こうして、リクオとつららの学園生活は始まったのだった。


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